思い込みが危険を招く! ~室内における熱中症リスクとは~

もうすぐ本格的な夏がやってくる。
気温が高いだけではなく湿度も高いこの時期は、熱中症への注意が特に必要だ。
そのリスクを正しく知り、今のうちから対策意識を高めておきたい。

 

熱中症の多くは「室内」で起きている

ここ数年、熱中症に関するニュースを頻繁に目にすることがある。
例年、熱中症は梅雨明けの時期に救急搬送のピークを迎え、死亡者数も増えやすいという。
梅雨明け後は急激に気温が上昇し、体が適応しにくい状態になることがその要因と言われている。

注目したいのは、熱中症は意外なことに炎天下の屋外ではなく、「住居など室内で起きる場合が大半を占めている」という点である。
そして、年齢層別に見ると半数近くが「高齢者」なのである。

 


※以前の記事から再掲

 

このように、『高温多湿の室内が、特に高齢者にとっては大きなリスクを伴う環境である』ということをまずは知ることが大切だ。
決して、“ 日射を直接浴びる” 外での活動だけにリスクがあるわけではない。
基本的なことだが、まずはこうした事実をしっかりと認識することが重要だ。
 
※災害レベルとも言われる熱中症リスクに関しては以前の記事で詳しく取り上げている
「夏の室内。その暑さはもはや災害レベル!?」(2019.07.30)

 

就寝中の室内環境にも十分に注意を!!

熱中症のリスクを軽減するためには、まず第一に、室内温度を28℃未満におさえ、湿度も50%前後になるように配慮することが重要。
そのためには「エアコン」を賢く使うことが一番の近道だろう。
高齢者の中には「エアコンが苦手」という人も実際に多いようで、そうした人が断熱性能の低い家に長時間在宅していることで、さらに熱中症のリスクが高まるとも言われている。

また、マンションに住む高齢者の場合は特に、「夜間熱中症」に対する注意が必要だ。
木造住宅と異なり、鉄筋コンクリートマンションの場合は昼間に屋根や外壁が熱を溜め込み、その熱が夜間にゆっくりと室内に伝わってくるため、朝まで室温が下がりにくい。
場合によっては、夜が更けてもどんどんと室温が上がり続けることもあるのだ。

このような事実はなかなか多くの人には知られていないのではないだろうか?

 


※以前の記事から再掲

 
就寝前にエアコンをオフにするとか、寝入りまでの1~2時間だけタイマーをセットするというような、なんとなくの習慣を持っている人は注意が必要だ。

「夜は涼しくなってくるから大丈夫」という誰もが陥りそうな思い込みが、高齢者の熱中症リスクを高めているという事実を知っておきたい。
 
※こちらも以前の記事で詳しく取り上げている
「共同住宅・集合住宅で高まる暑熱災害のリスク」(2019.08.30)

 
暑い夏には、就寝時も28℃の温度設定でエアコンを連続運転させておくことが推奨されている。
研究結果に裏打ちされたこのような知見は、積極的に普段の生活に取り入れていきたい。

 
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換気も熱中症対策には効果的だ。
室内に風を通してやることで、床・壁・天井の表面温度を効果的に下げられるだけでなく、暑さとともに高くなりがちな湿度を逃してあげることもできる。

熱中症のリスクを正しく認識するとともに、できる対策を無理なく行うことで、健康的に暑い夏を乗り切っていきたいものだ。

 
※参考データ出典 / 週刊文春ムック『温かい家は寿命を延ばす』(株式会社文芸春秋 令和元年10月17日発行)

健康的な暮らしをおびやかす “ダンプネス”

今年は平年と比べて記録的に梅雨入りが早いと言われている。
ジメジメした季節は気持ちも滅入りがちだが、そうした「心」の問題だけではなく、過度な湿度が直接「身体」に与える悪影響についても知っておきたい。

 

欧米では早くから問題視されていた“ダンプネス”

「ダンプネス」というワードはそれほど耳馴染みのある言葉ではないかもしれない。
『damp=湿気のある(湿気を帯びた)』から来ているDampness(湿気)だが、こと建物に関して使われる場合、過度な湿気が及ぼす影響のことを指す場合が多い。

2009年にWHO(世界保健機関)はダンプネスとカビに関する室内環境ガイドラインを策定し、ダンプネス対策を提示している。
そのガイドラインによると、「カビや水漏れ、カビ臭さ、建物の劣化、微生物汚染など、測定または目視できる過度の湿気を原因とする問題が確認できるような状態」と、ダンプネスが定義されている。*


(WHO guidelines for indoor air quality : dampness and mould)

 

どのようにダンプネスが健康に影響を及ぼすのか

過度な湿気が身体にどのように影響を及ぼすのか?
そこには湿気自体の直接的な影響ではなく、「室内環境の汚染」を介した影響が大きいことが知られている。
下記図表を引用する。


*『健康に暮らすための住まいと住まい方エビデンス集』より

 
「水分の発生源」から「ダンプネス」そして「室内環境の汚染」を介して「健康影響」へ繋がっている、という流れが明快に表されている。

欧米諸国では早くからダンプネスが及ぼす健康への影響についての問題意識は高く、特に喘息や上部軌道疾患との因果関係を調べる研究が進んでいた。
アメリカでは、「喘息を患っている人の約20%は住宅のダンプネスが原因である」というデータを導いたり、またカナダでは、「ダンプネスが子どもの喘息発症を50%高めたり、上部気道疾患を60%高める」というようなデータも示されていた。*

 

日本における研究成果

日本でも、既に10年以上前、2007年~2010年に東北大学の吉野博名誉教授らが実施した疫学的調査の結果が公表されている。
中でもケース・コントロール研究手法に基づく全国規模の実測調査の結果を紹介したい。

 


*『健康に暮らすための住まいと住まい方エビデンス集』より

 

アレルギー性疾患を有する家族がいる群(ケース群)では、冬期や梅雨の時期に相対湿度が70%を超す割合が高くなっていることが示されている。
高湿度状態の環境と疾患との相関関係を客観的に捉えた貴重なデータだ。

 

ダンプネスによる健康影響を受けないための「住まい」と「住まい方」

これまでの研究成果から、ダンプネスによる健康影響を受けないためには高湿度な状態を継続させないことが何よりも求められる、ということがわかっている。
特に呼吸器疾患の発症を促すカビやダニなどの微生物の繁殖を助長させないことが重要だ。

具体的な対策としては、
換気を十分に行うこと、洗濯物を干すなどの“室内で湿度を発生するような住まい方”を極力避ける、室内の湿度が高い場合には除湿機を運転する、などが提言されている。*

市販の温湿度計などを活用し、40%~60%といわれる適正湿度に室内を保つことがポイントになる。
(参照:前回の記事『子どもの疾病に住まい環境が影響を!?』

また、新築を検討したり既存住宅のリノベーションを計画する際などには、家全体の換気計画についてもしっかりと検討することが大切だ。間取りやデザインだけにとらわれず、健康的な室内空間を実現できるかという点にも目を向けていきたい。

 
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明瞭な四季の移ろいを愉しむことができる日本。
梅雨は梅雨で趣のある季節ではあるが、ジメジメした時期を迎えるにあたって、高湿度な室内環境をそのままにしておくことのリスクについては、改めて意識を向ける必要がありそうだ。

カビやダニを発生させないように湿度制御を上手に行いながら、健康的な室内環境のもとで梅雨の時期を乗り越えたいところだ。

 

*資料・データ出典 / 『健康に暮らすための住まいと住まい方エビデンス集』
(健康維持増進住宅研究委員会/健康維持増進住宅研究コンソーシアム 編著)

子どもの疾病に住まい環境が影響を!?

「住まいと健康」に関する研究が、さらなる飛躍を遂げようとしている。
これまで行われてきたいくつかの研究を“統合”して分析することで、より有意義な結果を得ようとする試みが進んでいる。
今回はその中でも、子どもの疾病と住まい環境に関する研究成果を紹介したい。

住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 ~第5回報告会~(日本サステナブル建築協会)で報告された『他調査との統合分析の施行』における「子どもの疾病・諸症状」。
慶應義塾大学の伊香賀研究室が中心となって分析したものだ。

 

子どもの疾病に室内環境が影響を及ぼす可能性

分析対象として「2014~2018年度の国土交通省スマートウェルネス住宅等推進調査事業」の調査における子どものデータと、「2015年、2017年、2018年における平成11年基準適合住宅調査等」における子どものデータを使用し、いずれも12歳未満のデータに絞って分析をした結果が報告されている。※有効サンプル686名(405世帯)。

「喘息」・「中耳炎」・「アレルギー性鼻炎」・「アトピー性皮膚炎」
この4つの疾病について、室内環境の違いによってどのような差が生まれるのかを調べている。
まずは686名について、その症状の有無を明らかにするところから。

 

 

例えば、アレルギー性鼻炎や中耳炎という診断を受けた子どもは、4人に1人の割合でいることがわかる。

 

ここからが本題である。

これらの疾病について「診断を受けたことがない」子どもたちを[0]群、それ以外の「診断を受けたことがあるが特に治療していない」「症状が悪い時のみ受診・治療している」「定期的に受診・治療している」子ども達を[1]群とし、それぞれの疾病ごとに室内環境による影響を分析している。

※分析に使用されている指標(イメージ)

 

 

◆居間の床近傍室温の「喘息」症状との関わり

最初に、「喘息」についての分析結果を見ていこう。

居間床近傍室温が中央値(ここでは16.1℃ )以上の子どもは、中央値未満の子どもと比べて、喘息である可能性が0.5倍となっている。つまり半分という結果だ。
足元が暖かい住まいでは、喘息症状が発生するリスクを低減できる可能性が示された。

 

◆適正湿度の「中耳炎」症状との関わり

次に、比較的大人よりもかかりやすいといわれる「中耳炎」についての分析結果を。

居間湿度が40%未満の子どもは、40%以上60%未満の子どもと比べて中耳炎である可能性が1.5倍高いことがわかった。
室内を乾燥させずに適正湿度を保つことで、「中耳炎」のリスクを低減できる可能性が示されている。

 

◆適正湿度の「アレルギー性鼻炎」症状との関わり

花粉やハウスダストなど様々な要因で症状が現れる「アレルギー性鼻炎」と室内環境との関連性はどのようになっているだろう。

 

居間床上1m室温が18℃未満の群について、湿度と症状の有無を分析したところ、居間湿度が40%未満の子どもは40%以上60%未満の子どもと比べて、アレルギー性鼻炎である可能性が2.5倍高い傾向がある。
これもかなりインパクトのある数値ではないだろうか。

 

◆適正湿度の「アトピー性皮膚炎」症状との関わり

最後に、アトピー性皮膚炎に関する分析結果が下記のとおり。

居間床上1m室温が18℃未満の群について、湿度と症状の有無を分析したところ、居間湿度が60%以上の子どもは、40%以上60%未満の子どもと比べて、アトピー性皮膚炎である可能性が1.9倍の傾向。
この結果を見ても、低すぎず高すぎない「適正な湿度環境」が重要であることがわかる。

 

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詳細な数値データはここでは紹介せず、大きな結論だけを紹介した格好になったが、
いずれも室内環境が子どもの疾病に少なからぬ影響があることを示す結果になっている。

「18℃ 以上の暖かさ」「40~60%と言われる適正湿度」を保てる室内環境をこれまで以上に重視し、住む人自身も学びながら住まいづくりを行っていくことが大切なのではないだろうか。
特に今回発表された研究成果から、室温ほど明確に体感しにくい “湿度” への意識を高めていく必要性が感じられた。

今後の更なる“統合分析”の可能性に期待したい。

 

※資料出典/住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 ~第5回報告会~(日本サステナブル建築協会)より

「2050年カーボンニュートラル」達成のカギは “暖かな住まい”!

カーボンニュートラルに向けた動きが加速しつつある。
先月2月24日に行われた『第5回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース』の様子がYouTubeでもLIVE配信され、大きな関心を呼んでいる。

 

菅総理大臣が「2050年のカーボンニュートラル実現」を宣言したのが、2020年10月26日。
地球温暖化対策で世界に遅れを取っている日本だが、この菅総理の宣言は「いよいよ待ったなし」という機運の高まりをもたらした。
しかし、機運の高まりだけでは事は進まない。スピーディで具体的な取組みを実行できなければ、「2050年カーボンニュートラル」は絵に書いた餅に終わってしまうだろう。

 

“省エネと健康快適はセット”という力強いメッセージ

そうした危機感を持ったメンバーが構成員に名を連ねる『第5回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース』でも、具体的な実行計画と強力なリーダーシップを求める声が多くあがった。
非常に興味深い議論であり、また「従来型の政策では到底実現には至らないのではないか」という危惧も同時に抱くことになった。

この第5回のタスクフォースに参加していた東京大学大学院「前 真之」准教授の提言が秀逸だった。限られた短い時間の中で、問題提起と具体的な提言がなされている。

中でも、
「健康・快適は日本の全ての家で必ず実現すべき基本性能であり、オマケでも贅沢でもない!」
「健康・快適な暮らしを少ない電気代で実現するのが真の省エネ!」
「省エネは国民の命と人生にかかわる大問題!」
「今こそ住宅への集中投資で健康・快適な暮らしと脱炭素の一石二鳥を目指すべき!」
という明快な言葉は、非常に強いメッセージとしてこの議論の中核を成していた。

 

今動かなければいけないワケ

カーボンニュートラルの実現のためには「自然エネルギーの最大活用」と「省エネルギー」という両輪が大きなテーマとなるが、この会議では「省エネルギー」が担うポテンシャルの高さについて言及されていた。
言い換えれば、「省エネルギー」への取組み次第で日本におけるカーボンニュートラルの命運が決まる、ということだろう。

内閣府の特命担当大臣を務める河野太郎氏も「再生エネルギーをいくら頑張っても、省エネが疎かだったらカーボンニュートラルは達成できない!」「再エネを増やすとともに、省エネを徹底的にやっていかないと!」という考えを明言していた。

そして、その「省エネ」による効果が大きく見込める分野が“住宅”なのである。

⇒日本の住宅の約9割は無断熱を含む低断熱住宅。暖房等で多くのエネルギーを消費している。

 

2020年から施行されるはずだった「省エネ基準の適合義務化」が直前になって見送られ、「説明義務化」に留まってしまったりと、日本全体の住宅性能向上に向けた動きはとてつもなく鈍い。
2050年と言えば、あと30年。
住宅の寿命を考えると、今、性能の低い住宅がどんどん建っていってしまっては、2050年までの脱炭素化など夢のまた夢。
会議に参加していた有識者たちが声高に「今すぐにアクションを起こすべき」と叫んでいる理由はここにある。

 

地球環境のために。住む人の健康・快適のために。

暖かい住まいと健康との関連についてこれまでも多くの研究者の研究成果を紹介してきたが、2050年カーボンニュートラル宣言を契機に、省エネの面からも日本の住宅性能向上への期待が高まることは確実だ。
前先生の言う「省エネに熱心な “ピンの作り手” 」は日本各地にたくさんいる。
「新しい家づくりを全く勉強しない“キリの作り手” 」を守ろうとしているのではないかと揶揄された国交省をはじめ、各省庁には連携して最大限の省エネを実現するための環境を早急に整えてもらいたい。

 

脱炭素と健康快適な暮らしの実現のために、この会議においても重要なキーワードとして飛び交った “バックキャスティング”という考え方で、大きく舵を切るべき時が来たと言えるだろう。

今後の動向もしっかりと見届けていきたい。

 

※バックキャスティング・・・今できることを積み上げて目標に近づけていくフォワードキャスティングの対義語で、目標までのプロセスを明確にしてから今やるべきことを考えること。

断熱改修の規模による効果の差って!?

断熱改修工事というのは、「広範囲にやればやるほど」「お金をかければかけるほど」その効果は高くなるのだろうか?
断熱改修の規模によって、その効果にはどのくらいの違いが出るの?
そんな素朴な疑問に答えてくれる一つの研究成果を紹介する。

 

改修範囲が広いほど室内は暖かくなる?

基本的には答えは “Yes” だ。
では、手をかける範囲によって室温の変化にどれだけの差が出るのか?
そんな興味深い研究の成果が発表されている。

以下、日本サステナブル建築協会『住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査
第5回報告会』で発表された研究成果を紹介したい。

 

まずは断熱改修を行った範囲に基づき、2つのグループに分ける。

1つ目は、「開口部のみ」を断熱改修したグループ。
(いわゆる窓や玄関等の開口部だけを断熱化したもの)
2つ目は、「開口部」+「α」 で、
開口部の他、天井や壁、床などの外皮を一箇所以上断熱改修したグループだ。

 

 

この2つのグループ別に断熱改修前後の室内温度を比較した結果が以下のとおり。
※断熱改修前後で外気温が異なるため、外気温5℃の場合の最低室温を算出して分析に使用。

 

【戸建住宅の場合】

 

【共同住宅の場合】

 

共同住宅の方がその違いが明確に出ているが、
より広範囲の断熱改修を行うほど室温の上昇量が大きい、という可能性が高いことがわかる

※寝室と脱衣所でも同様に調査した結果、同じ傾向を示している。

 

改修費用によって室内温度の上昇量に違いは出るのか?

では、改修費用によって断熱効果に何らかの違いが生まれるのだろうか?
施工範囲(規模)によってかかる費用はもちろん変わるので、
ここでは1㎡あたりの改修費用によって2つのグループに分けて比較している。

いわば “改修の質” による比較と捉えられるかもしれない。
「㎡あたり10,000円未満のグループ」と、もう1つが「㎡あたり10,000円以上のグループ」だ。

 

【戸建住宅の場合】

 

【共同住宅の場合】

 

断熱改修面積に対してより多くの費用を投じるほどに室温上昇量が大きくなる、という可能性が
示された。ここでも特に共同住宅での効果の差が大きい

※寝室と脱衣所でも同様に調査した結果、同じ傾向を示している。

 

広範囲の断熱改修を行い、また、多くの予算を投じることで室温の暖かさはより叶えられる。
当たり前だと怒られるかもしれない。
しかし、この「当たり前」のように思われることが “実証” された意義は大きい

とはいえ、たくさん壊して多くの部位に手をかけ、たくさんのお金を闇雲にかけるのが良いかという単純な問題ではない。ここが非常に重要だ。
ここを履き違えると、無駄に費用を投じ、その割に大した効果が得られなかったなどという結果につながってしまう。
しっかりとした住宅検診のうえで、弱い部分を効率的に補強して家全体の性能向上を目指すという姿が、費用対効果の点においても、求められる本筋なのだろう。

 
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詳細な住宅属性別の分析や、住む人の生活習慣を考慮した解析など、さらなる研究の展望が広がっているという。
断熱改修工事の効果、特にその質の重要性に一層光が当てられることになるのではないだろうか。
今後のさらなる研究成果に期待したい。

 

冬場は特に注意したい!室内の上下温度差。

ヒートショックに関する話題では、よく「部屋間温度差」という言葉が聞かれる。
しかし部屋間の温度差だけではなく、同じ室内の「上下温度差」も健康に影響をもたらすことが知られている。今回の記事では、その上下温度差に関する実験の成果を紹介したい。

 

上下温度差が生まれる部屋の現状

一般的に日本では、寒さの厳しい冬場に、様々な暖房を用いて室内の快適さを保っている。
エアコン、ストーブ、ファンヒーターなどが代表的だろう。
通常温かい空気は天井付近に停滞し、室内下部は低い温度になるが、これらの暖房器具を使用している時は、その垂直方向の温度勾配がさらに生じやすくなるという。

ある実験モデル住宅での実験によると、エアコン暖房稼働時、床温度は22℃、床上110cmの温度は27℃と、5℃の温度差が生じていることがわかった。
もちろん暖房器具の種類や部屋の構造の問題でその差には違いがあるが、私たちは普段この程度の温度差がある環境に身を置いて生活しているといえる。

 

上下温度差がもたらす健康への影響は?

室内の上下温度差による健康への影響を検証した3つの実験結果を紹介したい。

1つ目の実験は、異なる環境条件下(①エアコン暖房・②床暖房・③暖房無し)での血圧値の変化を調べたものだ。
人工気候室内において健康な若年男性8名と高齢者男性8名にそれぞれの環境下で90分座っていてもらい、その血圧値(収縮期血圧:いわゆる上の血圧)の変化を計測している。

ひと目でわかるとおり、若年者についてはどの環境下においても血圧値に大きな変化はない一方、高齢者については、時間が経つにつれ収縮期血圧の数値は高くなっており、特に「暖房無し」の環境ではぐんぐん数値が伸びてしまっているのが見て取れる。
エアコン暖房や床暖房を使用している環境では、高齢者でも血圧の上昇はある程度抑えられている。

 

2つ目の実験は同じく人工気候室内において、上部温度を25℃に一定に保ち、下部温度だけを25℃、22℃、19℃、16℃ にコントロールした状態での血圧値(収縮期血圧)を検証したものだ。
※ 同じくそれぞれ90分椅座位(いざい)にて滞在

グラフのとおり、若年者は下部温度が低くなっていっても血圧に大きな変化が生まれないのに対し、高齢者の場合、下部温度が22℃以下になると明らかに収縮期血圧が高くなっている。
室内の“上下温度差”を生まない環境が、とくに高齢者にとっては、身体に負担を与えない一つの大きなポイントであることがこの実験からもわかる。

 

3つ目の実験は男女の温熱快適性を検証した実験だ。

若年男性と若年女性それぞれ8名ずつに、2つ目の実験と同じ環境下で120分滞在してもらい、大腿部皮膚温(いわゆる太ももの皮膚温)を測定したもの。

下部温度が下がるにつれて大腿部皮膚温が低下するのは想像のとおりだが、下部温度が19℃、16℃の環境下では、皮膚温低下は男性に比べて女性の方が顕著に大きいことがわかった。
この男女の明らかな違いはとても興味深い。
一般に冷え性は女性に多いイメージだが、そのイメージは現実的にも正しいと言えそうだ。

 

上下温度差は3℃以上にならないように注意

紹介した実験では、高齢者においては上下温度差が上部25℃に対して22℃以下になると、高血圧症や心疾患を有していない方でも、血圧が若年者に比べ上昇することが認められた。
心血管系への負担を考慮した時、上下温度差は3℃以上にならないような配慮が必要であると言えよう。
快適空間を規定している国際規格「ISO7730」においても、室内の上下温度差は3℃以内にすることが推奨されていることからも、この実験で得られた結果には説得力がある。
また、仮に若年層であっても、女性の場合は下部温度が低い上下温度差がある環境では、下半身を暖かく保護しながら、適切な暖房方法を選択することが大切であることもわかった。

 

冬場の寒い室内では、まず大前提として、暖房を用いて室温を最低でも18℃以上にはキープし、かつ、上下温度差を3℃以上に広げないことが望ましい。
部屋間温度差のみならず、室内の上下温度差、特に下部温度の低下による温度差が生まれないような暖房方法を採用し、身体の不快感、ひいては健康への影響を最小限に留めることを意識していきたい。
快適で健康的な住まいの条件として、また一つ重要なポイントを知ることができた。

 

※資料・データ出典 / 『健康に暮らすための住まいと住まい方エビデンス集』
(健康維持増進住宅研究委員会/健康維持増進住宅研究コンソーシアム 編著)

室温環境の改善で健康診断数値を見るのが楽しみに!?

暖かい室温が健康に及ぼす様々な影響は、少しずつではあるが一般にも広く知られつつある。
多くの研究者たちの根気強い研究とその発信の賜物だろう。
今回はそんな中でも、多くの人に比較的身近に感じられる「健康診断数値」と「室温」との関係に着目した研究成果を紹介したい。

 

血圧だけではない、室温環境が及ぼす影響

多くの方が最低でも年に一回は目にしているであろう健康診断数値。言うまでもなく、病気の早期発見に繋がったり、また、その数値から様々な疾病リスクを知ることができるものだ。
今回紹介する研究では、その健康診断数値の中でも『血中脂質』と『心電図所見』に着目して、室温との関連を検証している。

※日本サステナブル建築協会
『住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査』第4回報告資料より

 

まずは丁寧に基準値と前提要件が示されている。

【前提要件】
・血中脂質を「動脈硬化の進行度(血管年齢)」と定義し、寒い家と暖かい家の居住者で比較
・心電図所見ありを「循環器疾患ハイリスク者」と定義し、寒い家と暖かい家の居住者で比較

 

暖かい住宅群と寒い住宅群とで具体的な有意差は見られたのか?

WHOが提唱する18℃ 以上の室内温度。
この18℃ を境とし、一日の中でも居間室温が最も低い時間帯である朝5時の気温が18℃以上の家を「温暖住宅」、18℃ 未満の家を「寒冷住宅」とし、2つの群に分けて比較している。

 

“血中脂質”での比較結果は以下のとおり。

対象者の総数は違えど、総コレステロール値、LDLコレステロール値ともに、2つの群では明らかな有意差が見て取れる。

 

さらに、“血中脂質が基準値以上”“心電図異常”となる「寒冷住宅群」のオッズ比を示したグラフが以下のとおりだ。

 

図中に示されているとおり、寒冷住宅で総コレステロールが基準値を超えるオッズは2.6倍
LDLコレステロールが基準値を超えるオッズは1.6倍。そして、心電図の異常所見ありとなるオッズは1.9倍、という結果が出ている。

 

以上のとおり、寒い家では、コレステロール値が基準範囲を超える人、心電図異常所見がある人が有意に多いことがわかった。

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特別な健康調査を行わずとも、比較的手元で確認しやすいのが健康診断の数値だろう。
コレステロール値、心電図異常所見欄を改めて確認しながら、住まいの室温環境にぜひ思いを巡らせてみて欲しい。

他にも様々な要因があることは言うまでもないが、同じ生活習慣を保ったと仮定した時、暖かい室温環境を実現するだけで、それらの数値が大きく改善し、実際に病気のリスクを減らせるとしたら、それはとても価値のある話ではないだろうか

これからの研究成果にも大いに期待したい。

聴く力を育てる空間づくりとは?

今回はこれまでの記事では取り上げたことのない「音」についての最新研究を紹介したい。
住まい環境における「音」というと「防音」というワードをすぐに思い浮かべてしまうが、
今回紹介するテーマはズバリ『吸音』だ。
建築音響のトップランナーである熊本大学の川井教授に聞いた。

 

取材協力:
熊本大学 大学院先端科学研究部
建築音響研究室 川井敬二 教授

 

幼稚園・保育施設において重要な「吸音性」

一般住宅から離れて、幼稚園・保育園といった保育施設を頭に思い浮かべて欲しい。

こうした“保育空間”では「子ども達のにぎやかな声が響き渡り」「やかましくて当たり前」と思う人が多いのではないだろうか。
子ども達が楽しく走り回り、先生方が大きな声を張り上げている光景を、むしろほのぼのした雰囲気と感じる人すらいるかもしれない。
しかし、実際に保育の現場で活躍するスタッフからは「絵本の読み聞かせをしても子ども達が途中で飽きてしまう」「子どもの小さな声がききとりにくい」「大きい声を出してしまいがちで喉をいためる」というような声が多く聞かれる。

そんな多くの保育現場の現状について、川井教授は「子どもが “聞き取りやすい”音環境を整備することで保育の現場はもっと良くなるはずだ」と言う。
発達の途上にある低年齢の子どもほど、ざわざわした騒音や響きの中で言葉を聞き取る能力が未熟で、大人は聞き取れても子どもは聞き取れていない可能性がある、と。空港の雑音の中で私たち大人が英語のアナウンスを聞き取れないのも英語能力が未熟だから、というのと同じだという。
素人ではまったくよぎりもしない考えではないだろうか。

 

聞き取りづらさを招く「残響」

室内で「音」が発生すると「直接音」と「残響」として耳に届く。
「直接音」というのはその名のとおり音の発生源から耳に直接届く音、「残響」とは壁や天井で反射して室内に拡散する音全体こと。クラシック音楽のコンサートホールではこの「残響」の設計が大切。
しかし、声の聞き取りにくさを生む正体はこの「残響」だという。
残響が残る時間が長いほど、直接音がそれに紛れてしまい、聞き取りづらくなる。
実際の生活の場面でも、カフェや居酒屋などでは残響が長いことが多く、多くの会話が残響とともに混じり合って、会話に支障が生じるのでお互いが大きな声で話すようになり、その結果全体の音量が上がってさらに騒々しくなる、という悪循環がよく見られるようだ。

前述の保育施設での様子も、まさにこの典型なのだろう。

 

欧米諸国では保育施設の音環境の基準が定められている

残響時間の短縮には室内の「吸音設計」が必要だ。保育室において確保すべき静けさや残響時間の目標値など、音環境の建築基準・規格はすでに多くの欧米諸国では定められており、吸音設計についても浸透している。
低年齢の子どもほど良好な音環境を必要とすることが社会全体で認知されているという。
しかし、残念ながら日本には保育室に関する音環境の基準はなく、吸音の必要性については建築設計や保育に関わる人たちの間でもほとんど知られていない。

 

実験で確かめられた効果

川井教授が2017年に熊本県内の幼稚園で行った「聞き取り実験」の結果がある。
3歳~5歳児を中心に、室内に吸音材を設置して行われた検証実験だ。

吸音材を用いた空間と、吸音材無しの空間で単語の聞き取りを行い、正答率を調査。
その結果、年齢が低い方が騒音が大きい条件、吸音材のない条件での聞き取りの正答率が低下していることが見て取れる。
このことから、騒音はもとより、残響の影響も小さい子どもほど大きいことがわかった。

また、吸音材を設置した部屋では「絵本の読み聞かせを最後まで聞けるようになった」「全体に静かになり子どもの小さな声にも気づきやすくなった」というような実際の保育士たちの喜びの声も聞けたそうだ。
吸音実験を行った園の保育士に対して行ったアンケートの結果も興味深い。

 

快適な音環境のポイントは・・・

良好な音環境を作るには3つのポイントを押さえることが必要だという。
それが「室の形状や配置」「遮音計画」「吸音計画」だ。
例えば、音が出る部屋とお昼寝の室は壁でしっかりと音を遮るか、2つを近くに配置しない工夫を。また、高い天井や大空間は残響を過多にし、ドーム天井や丸い壁など凹面は音の集中を発生させるので音の問題を起こしやすいという。
そして吸音だが、対策しやすいのはまずは天井。よく使われている「ロックウール吸音ボード」は比較的安価で良好な響きを作ってくれる。
壁の吸音によく使われる有孔板は、板を壁から浮かせて調整することが必要で、音の知識に裏打ちされた施工が必要だという。

 

『学校施設の音環境 保全規準・設計指針』日本建築学会(2020.06)

 

近年、日本でも「吸音」がもたらす保育の質の向上に対して、関係者の関心が広まりつつあるという。
今後は、今年6月に日本建築学会から出版された、学会が提案する保育施設の音環境設計に関する規準・指針の浸透や、音に関しての相談窓口の整備に尽力しながら、子どもたちのためのより良い音環境づくりの意識を広めていきたいという川井教授。

一般住宅においては、空間のサイズが小さく、また、カーテンやマットなど吸音性をもつ材が室内に多いため、保育環境ほど響きが問題になることはあまりないというが、『吸音』という視点自体は室内の快適な環境づくりのためには大いに参考になるのではないだろうか。

今後の研究、そして保育環境の改善にも注目していきたい。

入浴中の事故は増加傾向!リスクを低減するポイントは?

高齢者の入浴中の事故が増加傾向にある。
今回はその現状を伝えるとともに、“リスクを低減するために住まいの断熱化が果たせる可能性”を示唆した研究成果を紹介したい。

 

増加傾向をたどる「高齢者の入浴中の事故」

「交通死亡事故者数」の減少と反比例して増加傾向にある「不慮の溺死及び溺水の死亡者数」。
以前の記事でも取り上げたが、改めてその現状が消費者庁のデータとしてまとめられている。

※消費者庁ニュースリリース(令和元年12月18日)掲載資料に一部追記

「転倒・転落」とともに、「不慮の溺死及び溺水」が増加傾向にあることが見て取れる。

そして、その「不慮の溺死及び溺水」の中でも「入浴中」の事故は約7割にものぼっている。
大半が浴槽内の事故のことを指していると言っても過言ではないのかもしれない。

※消費者庁ニュースリリース(令和元年12月18日)掲載資料に一部追記

 

合わせて「おぼれ」事故による救急搬送者数は11月から3月までの冬季に多く発生することもわかっている。

こうした現状を受け、消費者庁では「入浴中の事故への注意喚起」をホームページ上に掲載している。

※消費者庁ホームページ内「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」

高齢者の入浴中の事故リスクの低減が国としても喫緊の課題であることがわかる。
ここでは特に(1)と(2)の2つに注目しておきたい。

 

住まい環境に左右される入浴習慣の違い

入浴中の事故リスクの低減のために住まいが果たすべき役割が、様々な研究から浮かび上がってきている。
特に、慶應義塾大学の伊香賀研究室が行っている「室温が入浴習慣に及ぼす影響の分析」によって、多くの知見が得られつつある。

以下、『住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第4回報告会』にて報告された研究成果の一部を紹介したい。

住まいの温熱環境を「温暖群」「中間群」「寒冷群」の3つに分けて、入浴時間と湯舟温度を実際に調査した結果である。

■ 群分け
1.温暖群/居間室温も脱衣所室温も18℃以上
2.中間群/居間室温が18℃以上、脱衣所室温が18℃未満
3.寒冷群/居間室温も脱衣所室温も18℃未満

 

※スマートウェルネス住宅等推進調査委員会 上記「第4回報告会」(2020.2.18)報告資料より

3つの群それぞれのデータを分析した結果、温暖群と比べると中間群では、湯舟の温度が“あつめ”である確率が有意に高く、寒冷群ではその傾向がさらに強い。
つまり、 居間や脱衣所が寒冷であればあるほど、熱めのお風呂に入る可能性が高くなっていることがわかった。
「脱衣所が寒冷であればあるほど、熱いお湯につかる・・・」
ヒートショックのリスクが非常に高まるのは容易に想像がつくだろう。

 

また、入浴時間と室温との関連を分析した結果がこちらだ。

※スマートウェルネス住宅等推進調査委員会 上記「第4回報告会」(2020.2.18)報告資料より

入浴時間の長さと室温との関連は見られなかったようだが、手足の冷えを感じている群は入浴時間が長いことがわかった。
前述の消費者庁ホームページ上に掲載されている注意点の1つ「湯につかる時間の目安は10分まで」という点からすると、決して望ましい姿とは言えない。

 

リスク低減のポイントは住まいの温熱環境にあり

いくつかの分析データを紹介したが、いずれも「家全体を暖かくすることで、“ 熱め ” のお風呂に “ 長く” 浸かるという危険性を低減できる」可能性が示された貴重な研究成果である。

 

冬の足音がすぐそばまで聞こえ始めているこの時期、温度差の少ない暖かな室内で過ごすことで、高齢の方々にとって入浴時間が危険なものにならないようにしたい。
もう一度家庭内の事故リスクに思いを巡らせ、できるところから住まい環境を改善していくことが求められているのではないだろうか。

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