光熱費高騰でも冬場の室温に配慮して健康リスクを回避

1年で最も寒く、暖房が欠かせないこの時期。
しかし、この冬はいつもと様子が違う。

エネルギー価格の上昇を受けて、大手電力会社は相次いで電気料金の値上げを実施したり、国への申請や検討を行ったりしている。
一方で、発電に必要なエネルギーの安定調達への懸念から、国は昨年12月から全国規模の節電要請を開始した。
さまざまな物価の高騰が家計を圧迫する中、節電や節約が普段にも増して意識され、寒い冬の暮らしに影響を及ぼしている。

暖かく健康に冬を乗り切るにはどうしたら良いのだろうか。

 

「暖房の使用方法で節電対策」が多数との調査結果も

節電への意識や対応はどうなっているのだろう。

 

YKK AP株式会社が昨年、全国の20~60代の男女1105名を対象に実施し、12月に発表した「冬に発生する家庭内の課題と窓の関係についての意識調査」(※)が参考になる。

 

調査結果の「冬に感じる住まいの困りごと」の1位は、「暖房使用による光熱費の上昇」(52.9%)で、燃料費高騰の影響が見て取れる。

こうした現状に対して、何らかの節電対策を実施予定と回答した約7割の人に「どのような節電対策を実施しようと思っているか」尋ねたところ、利用時間の減少や設定温度の変更といった「暖房の使用方法で節電する」との回答が64.4%にのぼった。

 

しかし、暖房費の節約は健康リスクを高めることにつながりかねない。

 

YKK AP株式会社のニュースリリース参照

 

住まいの寒さは血圧上昇などの健康リスクを招く

室温と健康リスクの関係については、当サイトでも折に触れて紹介しているように、さまざまな研究が進められている。

昨年2月に開催された「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第6回報告会」(主催:一般社団法人 日本サステナブル建築協会)の資料から、血圧と室温の関係に焦点を当てて見ていきたい。

 

住宅の室温変化が特に大きいのは朝と夜の差。
男性、女性ともに起床時の室温が低くなるほど血圧は上昇する。
この傾向は調査対象のすべての年齢で見られたが、高齢になるほど室温低下と血圧の上昇の関係は顕著になる。
また、女性は男性に比べて血圧自体は低いものの、室温が低下するにつれて血圧の上昇幅は男性より大きくなる。
つまり、高齢者や女性ほど室温の影響を受けやすいと言える。

高血圧は脳卒中のような循環器病のリスクを高める。
他にも室温と過活動膀胱や睡眠障害の関係が指摘されるなど、室温の低い“寒い家”は健康リスクを高めることにつながってしまう。

 

断熱改修でリスクを回避

これらの健康リスクを回避するには、断熱改修などによって“暖かい住まい”を実現することが有効だ。
前述の報告会では、断熱改修により起床時の血圧が最高・最低ともに有意に低下したことが紹介されている。

また、高齢者や高血圧患者などハイリスクの人ほど血圧の低下量が大きくなることも示されている。

 

 

国の支援事業などを活用して“暖かい住まい”の実現を

健康リスクを低減し、暖房費の抑制にもつながる断熱改修だが、改修費用を心配する人は少なくないだろう。

省エネルギー住宅の普及拡大に向けた機運の高まりを背景に、住宅の断熱性能向上への行政による支援事業が打ち出されており、それらを活用すればコストを抑えて断熱改修を実現することができる。とくに2023年は、「住宅省エネ2023キャンペーン」と題された、国の大規模なリフォーム補助事業が開始した。

 

住宅省エネ2023キャンペーン(国土交通省・経済産業省・環境省)

 

中でも注目すべきは、住宅の熱の出入りが最も大きい「窓」の改修に対する補助メニューだ。

経済産業省・環境省による「先進的窓リノベ事業」では、断熱性能に優れた先進的な窓への改修に対し、一戸あたり最大200万円が補助される。

先進的窓リノベ事業(経済産業省・環境省)

 

また、国土交通省の「こどもエコすまい支援事業」は、住宅の省エネ改修に一戸あたり最大30万円(子育て世帯・若者夫婦世帯は最大45万円)が補助され、子育て世帯・若者夫婦世帯がZEHレベルの住宅を新築する場合は一戸あたり100万円が補助される。

こどもエコすまい支援事業(国土交通省)

 

無理な節電や節約をして健康リスクを招き、医療や介護の費用負担が増加しては元も子もない。

省エネ・断熱改修に対する行政の補助制度がさまざま用意されており、それらを活用して暖かい住まいを実現し、寒い冬を健康で快適に過ごしたい。

 

住宅の24時間換気設備の効果発揮にはメンテナンスが重要

健康で快適な室内環境を維持する上で、室内の空気を新鮮な外気と入れ替える「換気」はとても大切だ。
コロナ禍では、感染症を防止する観点からもその重要性が注目された。
日本では約20年前に、全ての建築物への24時間換気設備の設置が義務化されている。
換気設備がその効果を発揮するには、日頃のメンテナンスが肝心。
ところが、6割もの人が「一度も掃除したことがない」との調査結果もある。
大掃除や換気に対する意識が高まる冬に、改めて換気設備のメンテナンスの重要性を確認したい。

 

24時間換気設備の義務化のきっかけはシックハウス対策

当時社会問題になっていた「シックハウス症候群(※)」対策として2003年7月1日、改正建築基準法が施行され、原則として全ての建築物に24時間換気設備(機械換気設備)の設置が義務付けられた。

 

これにより、住宅の場合、換気回数が0.5回/h以上となる換気設備の設置が必要とされた。

つまり、1時間で部屋の空気の半分が入れ替わることになる。

 

建物の気密性能の向上を背景に、室内の空気をきれいに保つため、住宅全体の「計画的な換気」が求められ、住宅のつくり手はそれを考えた設備設計に取り組んでいる。

 

計画換気のイメージ

 

※建材や家具などから発散される化学物質が原因と見られる、のどの痛みや吐き気、頭痛などの健康被害

 

 

換気による効果はシックハウス対策だけにとどまらない

この3年間、世界中の人々を悩ませている新型コロナウイルスなどの感染症対策でも、換気の重要性が繰り返し強調されている。

 

そもそも、室内の空気やホコリの滞留を回避し、カビやダニの発生を抑え、生活臭や空気の汚れを改善して、健康・快適な室内環境を整える上で、しっかりした換気は欠かせない。

 

住宅の断熱性能・気密性能が向上した現在では、なおさら必要性が増している。

 

換気設備の掃除は「一度もない」が多数派!?

2022年8月、三菱電機株式会社が衝撃的な調査結果(※)を発表した。
換気設備の義務化から1年後の2004年以降に建てられた家に5年以上暮らす全国の20~60代の男女500人を対象にした調査で、24時間換気システムを「掃除したことがない」との回答が60.0%にのぼったという。

掃除をしたことがある人でも、その頻度は「1年に1回以下」が39.5%を占め、満足に掃除されていない実態が浮き彫りになった。

さらに、24時間換気システムが自宅に設置されていることを「知らない」が39.4%。
知っていても「24時間稼働させていない」が44.0%にのぼり、せっかくの設備を活用できていない人が多いことも明らかになった。

これでは換気の効果が著しく損なわれ、室内環境の悪化を招いてしまう。

※「室内の空気環境を整える『24時間換気システム』一度も掃除をしたことがないという人が6割にも!」(2022年8月4日、三菱電機換気ソリューションPR事務局)

 

掃除によって換気量が2.4倍に

換気設備のメンテナンスを怠ると、住宅への影響や換気量の変化はどうなるのだろうか。
北海道住宅新聞の記事(※)は、札幌の設備会社による築約20年の住宅の換気設備の掃除に同行し、その実態を伝えている。

記事によると、住まい手は一度も掃除をしたことがないどころか、「そもそも、どこに設置されているのかも知らなかった」という。
しかし、内部結露を主因とする外壁の劣化をきっかけに、その原因が換気不足によるものと判明した。

掃除当日の測定では、4カ所ある排気グリルのうち2カ所は換気量ゼロ。
もう1カ所も換気量が「ごくわずか」しかなかった。

掃除すること2時間。
「住宅全体の換気量を測定すると、清掃前の51.2㎥/hから124.0㎥/hまで回復していた」という。
住まい手の「空気の流れを感じる」との感想から、住宅全体の「計画的な換気」がいかに大切か伝わってくる。

※「換気性能は掃除が生命線」(2022年11月25日掲載)

 

定期的なお手入れで空気環境を健康・快適に

寒い冬はついつい換気を避けたくなるが、24時間換気設備を止めてしまうと、空気の入れ替えが正常になされず、結露やカビ、ダニ、感染症などのリスクに脅かされることになる。
定期的にお手入れしてフィルターが詰らないようにするなど、メンテナンスに気を配り、室内の空気環境を健康で快適に保ちたい。

 

冬を健康・快適に過ごすための断熱改修のコツとは

「寒い冬でも健康・快適に過ごせるようにしたい」
そうは思っても、いざリフォームを考えようとすると、どこから改修したらいいのか、どんなことに気を付ければいいか迷ってしまう人は少なくないのではないか。
そこで、断熱改修の現場を知り抜いた北洲リフォームの遠藤光栄・一級建築士に、断熱改修のコツを聞いた。

 

■最も熱が逃げる「窓」から断熱改修を

 

―住宅のどの部分から断熱改修を考えたらいいのでしょうか。

 

遠藤:まずは熱損失が最も大きい「窓」から改修を考えると良いでしょう。
窓は住宅の熱の出入りが最も大きく、冬場では室内の熱の58%が外に逃げてしまいます。
逆に夏場は外の熱が窓を通して入り、室内の熱の73%に達します。
窓の断熱性能を高めることは、室内環境を向上させるのにとても重要です。

■安易な「窓だけ」改修は「身代わり結露」の原因に

―窓を改修すればひと安心ですか。

遠藤:残念ながら、「窓だけ」の安易な改修は、もともとの躯体の断熱性能によっては「身代わり結露」という新たな問題のリスク要因になります。
窓の断熱性能が、壁や床・天井の断熱性能を上回ってしまうと、そちらのほうが表面結露を起こしやすくなってしまいます。
部分的にでも断熱性能が上がれば、暖房効果も高まり室温が上がりますが、その反面、建物全体の断熱・気密が徹底されていない建物では、壁内への室内空気の移動により壁内結露の可能性も高くなってしまいます。

 

―壁や床に断熱材を入れていても防げないのですか。

遠藤:在来工法(木造軸組構法)の問題点ですが、築30年以上の建物や根太工法の場合は、壁と床や天井との取合い(接合部分)に隙間があるため壁内気流が発生します。
断熱材を入れても、繊維系断熱材であれば内部を気流が通過してしまうため、所定の断熱性能を発揮することができません。
間仕切り壁においても、上下に隙間があれば床下から小屋裏まで煙突状態となり、無断熱壁と同じ状況になってしまいます。

 

■「気流止め改修」で冷気をシャットアウト

―どうしたら問題を解消できますか。

遠藤:壁と床や天井との取合いに隙間ができないように、「気流止め改修」を施して冷気の流入を防ぎます。
気流止めには、乾燥木材や気密シート、圧縮グラスウールの気流止め製品を使うなど、いくつかの方法があります。床下から発砲ウレタン吹付断熱を全面施工することでも一定の効果が期待できます。こちらについても、安易な改修は要注意。
まずは、雨漏れや壁内結露による腐朽・蟻害などの劣化がないかどうか、現在の状態を確認することがとても大切です。

 

―建物の現状確認から始めればいいのですね。

遠藤:建物の構造、断熱や劣化の状況によって改修計画が異なってきます。
既存の建物の状態をしっかり調査した上で、必要な改修を考えることが大事です。

まずは既存の建物の状態をきちんと調査するところから

 

■断熱設計の3つの基本性能を確保する

―断熱改修のポイントは何でしょう。

遠藤:断熱設計の3つの基本性能「断熱性能」「防露性能」「気密性能」を確保することです。
さまざまな材料から作られている壁や床が、適切な断面構成になっているかが断熱性能の鍵になります。

 

3つの基本性能に関わる断面構成の層として、「断熱層」「防湿層」「気密層」「防風層」「通気層」の5つがあります。
この5つに加えて、断熱層内の気流や湿気の侵入を防ぎ、室内と室外の隙間をなくすために気流止めを設けることで、住宅全体を覆うように断熱層・防湿層・気密層を連続させ、断熱性能を向上させることができます。

 

■断熱改修の範囲はどこまで?

―住宅全体の断熱改修が理想的ですがハードルが高いですよね。

遠藤:費用や工期などが心配になりますし、ご家庭の状況によって断熱改修が必要な場所も異なると思います。
実際、子どもが巣立ち、夫婦2人のセカンドライフを考えてリフォームする方が多いです。

前真之・東京大学大学院准教授監修の「健康で快適な暮らしのためのリフォーム読本」(暮らし創造研究会発行)は、費用や工期などの不安を解消しつつ実情に応じた断熱改修の4つのプランを提示しています。

では、実際に住宅のどの部分の改修を考えればいいのか。
必須なのは生活ゾーン(LDK+浴室や洗面などの水回り)。
これに寝室も加えればベストでしょう。

生活ゾーンは断熱改修で温度差をなくし、ヒートショック防止へ

 

■適切な暖房と計画換気を

―改修後に注意すべきことは何ですか。

遠藤:室内の空気を燃焼に使い、その空気を室内に放出する開放型の暖房器具(石油ストーブや石油ファンヒーターなど)は、酸欠や一酸化炭素(CO)中毒の危険性がありますし、水蒸気が発生するため結露の原因になってしまいます。

また、計画換気システムは止めずに24時間連続運転してください。
これを止めてしまうと、室内の空気の汚れや結露の発生につながってしまいます。

 

■健康・快適な室内環境のカギは作用温度

―最後に、健康・快適な室内環境のために知っておくべきことは。

遠藤:健康で快適な室内環境には、作用温度(体感温度)を整えることが肝心です。
作用温度は「(表面温度+室内温度)÷2」で求められます。
※厳密には壁・床・天井などの表面温度(放射温度)の平均値

表面温度を高く保たなければ、どんなに部屋を暖めても作用温度は上がらず、暖かさを感じられません。

快適性に関する国際基準(ISO7730)では、頭から足もとまでの上下温度差が2℃以内であれば快適、4℃以内が許容限界とされています。

つまり、健康を保ち快適な住宅の実現には、断熱性能の向上が重要になります。
住宅の状況にふさわしい断熱改修によって、どんなに外が寒くても快適な我が家でのびのびと楽しい時間を過ごしていただきたいと思います。

 

加湿の工夫や調湿建材で「過乾燥」対策を

日本の冬の悩みといえば、結露(「結露と湿度の関係を知り、冬の悩みを解消するには」2022年9月30日掲載)だけでなく、「乾燥」も大きな問題だ。
乾燥による目・喉・肌などのトラブルに悩む人は多く、インフルエンザの予防でも乾燥対策が呼びかけられている。
適度な加湿が大事だが、注意すべきことは多い。
そうした中で、乾燥を軽減できる調湿建材が注目されている。

 

■室温アップが乾燥を増幅

冬の寒さが厳しい東北地方。
宮城県仙台市では、5~10月の相対湿度(月ごとの平年値)は70%台で推移しているが、冬の訪れとともに乾燥が強まる。
11月以降は60%台となり、3月には1年間で最も低い61%にまで下がる。

しかし、東京の冬の相対湿度(同)は50%台で推移しており、気象庁は「乾燥した空気」という表現を「湿度が低い空気で、目安として湿度がおよそ50%未満の状態」と説明している。
湿度60%台は、それほどひどい乾燥とは言えないようだ。
ところが、室内を暖めることで湿度はグンと下がる。
例えば外気温が2℃、湿度60%の場合、これを室内温度20℃になるように暖めると湿度は20%まで低下する。

 

■体感温度の低さがさらなる乾燥を呼ぶ

室温を考えるとき重要なのは「表面温度」「体感温度(作用温度ともいう)」だ。

 

表面温度とは室内の壁や床、窓などの温度のことで、断熱性能が低い住宅では外気の影響を受けて低くなる。
体感温度は文字通りの意味で、「(室内温度+表面温度※)÷2」で算出できる。

※厳密には表面温度(放射温度)の平均値である平均放射温度

 

理想的なのは「室温=表面温度」の状態。
表面温度を高く保つには断熱が肝心だが、断熱性能が低いと表面温度の低さから暖かさが体感できず、がんばって室温を上げることになる。
室温を上げれば上げるほど相対湿度は下がり、肌や粘膜が乾燥する悪循環に陥ってしまう。

 

高断熱の住宅でも、水分の出ない暖房器具であるエアコンの使用はやはり乾燥を助長する。

 

■加湿を工夫し、日常生活で出る水分を活用

乾燥によるトラブルを防ぎ、インフルエンザなどの感染リスクを低減するには、適度な湿度の保持が大切になる。
厚生労働省はインフルエンザ予防にとって、「室内を適切な湿度(50~60%)に保つことも効果的」としている。

 

加湿には日常生活で発生する水分が活用できる。
4人家族を想定した場合、室内干しで約3ℓ、入浴で約2ℓの水分が発生する。
浴槽のお湯を一晩ためておけば約3ℓの水分が発生するため、浴槽のふたと浴室の扉を開け放つ方法もある。

 

それでも乾燥する場合は加湿器だ。
ハイブリッド式や気化式などのタイプがあるが、衛生面や消費電力、暖房器具との併用の仕方など考慮すべき点があることに留意したい。

 

ただし、加湿の際は住宅内の温度をできるだけ均一に保つように注意したい。
湿気は寒い場所に移動するため、カビやダニの発生を誘発し、アレルギー疾患のリスクを高めてしまう。

 

最近では加湿機能のあるエアコンも登場しているが、空気中の水分を使うため、そもそも乾燥している冬場において十分な加湿効果はあまり期待できない。

 

 

■注目される調湿建材

より効果的に湿度をコントロールする上で注目されているのが、調湿効果のある自然素材や建材だ。
床や壁、天井などの内装の仕上げ材に水分を吸放湿できる材料を使うことで、乾燥を軽減することができる。

 

自然素材では、無垢のフロアや板張りの天井、漆喰や珪藻土などを使えば調湿効果が期待できる。無垢材の場合は、細胞壁の中の繊維に水分子がくっついたり離れたりするため、季節を問わず爽やかな肌触りが維持でき、素足で快適に過ごすことができる。

 

さらに効果が高いのが調湿建材で、性能試験でJIS規格の基準に達した天井材や塗り壁材などを指す。

 

北洲では、調湿建材の基準をクリアした塗り壁や天井を提案している。
比較的面積の大きい壁で調湿することにより、大きな効果が期待できる。

 

■高断熱・調湿建材の活用・加湿の工夫で健康的な冬を

最適な湿度を求めてさまざまな工夫がなされているが、最も効果的なのは住宅の断熱性能を高め、内装の仕上げ材に水分を吸放湿できる調湿建材を使い、加湿を工夫すること。

 

乾燥を軽減することは、健康的に冬を楽しむ第一歩になる。

 

 

結露と湿度の関係を知り、冬の悩みを解消するには

冬になると私たちを悩ませる結露。
換気などの対策が毎年呼びかけられるが、改善は容易ではない。
結露と湿度の関係やメカニズムを知り、根本的な対策を講じることが重要だ。

 

■結露はどうしてできる?

空気中には水蒸気の状態で必ず水分が含まれている。
どのぐらいの量の水蒸気を空気中に含むことができるかは、空気の温度によって変化する。
暖かい空気ほど水蒸気を多く含むことができるが、冷えていくに従って含み得る水蒸気の量は減っていく。

水蒸気が飽和状態になる温度を露点温度と言い、さらに空気の温度が下がり水蒸気が最大量(飽和水蒸気量)を超えると、空気はすべての水分を水蒸気の状態で保持することができなくなり霧や水滴が発生する。

これが結露だ。

 

 

■低断熱・低気密住宅ほど結露に悩まされやすい

家の中の温度差が大きく、窓際や壁際など空気が冷やされた場所がある低断熱・低気密住宅ほど結露が発生しやすい。
暖房によって温められた空気が、窓表面や壁表面で急激に冷やされて結露が生じるためだ。
さらに表面だけでなく、壁の中に侵入する空気も露点温度に達すると結露の原因となる。

■健康リスクを高める要因に

湿度に関連したさまざまな健康への影響を最小限に抑えるため、住まいの湿度の適正範囲は40~60%と言われており、建築物衛生法でも40~70%とされている。

湿度が40%を下回ると乾燥状態となり、インフルエンザなどのウイルス感染リスクが高まるほか、目や肌の乾燥などの問題が生じる。

一方、湿度が上がり過ぎると、カビやダニが発生しやすくなり、アレルギー疾患のリスクが高まる。

※高湿度状態の健康への影響については、「健康的な暮らしをおびやかす“ダンプネス”」(2021年5月28日掲載)も参照。

 

それだけではない。

窓ガラスや窓枠、窓際の床が水滴で濡れ、木のフローリングにカビが生えたり腐ったりするなど、木材や仕上材の汚損や腐朽、断熱材の性能低下により、建物の寿命を縮めることにつながってしまう。

 

■暖房器具によっては結露が発生しやすくなることも

暖房器具を使って室内の温度を高めさえすれば結露を防げるのだろうか。
残念ながら、暖房器具の種類によってはむしろ結露が生じやすくなる。

 

石油ストーブや石油ファンヒーターなど、室内の空気を使って燃焼する暖房器具は水分が発生する。灯油1リットルが燃焼すると、1.1リットルの水分が出るとされている。

エアコンや電気ストーブなど水分が出ない暖房器具でも、家の中に温度差が存在する限り結露の発生をなくすことはできない。

洗濯物の室内干しや調理など、日常生活のさまざまな場面で水蒸気が発生しており、暖房の選択によっては結露の発生を助長してしまうことになる。

 

■こまめな換気や除湿には限界も

結露対策として、こまめな窓の開放や換気扇の活用による換気で、水蒸気を屋外に排出する方法が呼びかけられている。
また、湿気は暖かい場所から寒い場所に移動するため、湿気がたまりやすい水回りや収納の空気を入れ替えたり、除湿機や乾燥剤を活用したりする方法もある。

しかし、これらは手間がかかる割に根本的な対策にはなり得ない。

 

■最も有効な解決策は「温度差をなくすこと」

結露の解決に最も有効な対策は、住宅内の「温度差をなくすこと」。
断熱・気密の性能を高めて、外の寒さの影響を受けにくく、家の中に冷たい場所がないようにすることが重要になる。

断熱性能を高めれば、室温を低く設定しても十分な暖かさを手に入れることができ、結露が発生しにくい上に、乾燥対策の面でも緩和が期待できる。

■注目すべき窓まわりの断熱性能改善

住宅の断熱性能を高める上で、まず着手すべきは熱の出入りが大きい開口部、特に熱を通しやすい窓の改善だ。
窓などの開口部からの熱損失は、冬の暖房時の熱の約6割に及ぶとされる。

内窓の設置やサッシの交換で断熱性能を高めるだけでも、大幅な改善が見込める。

実際、築30年の仙台市のあるマンションでは、リフォームで内窓を設置したことにより、冬には一桁にまで下がっていた窓まわりの表面温度が20℃にまで改善された。

 

■しっかりした対策で健康リスク回避を

断熱性能を高めて温度差のない住宅環境を作り出すことが、私たちを結露の悩みから解放してくれる。
さまざまな健康リスクから身を守るためにも、しっかりとした対策が求められる。

 

 

医療費と暖房費のコスト比較が示す高断熱化の恩恵

住まいを高断熱化することによって得られる健康面での恩恵について、当サイトではこれまでさまざまな視点から記事を掲載してきた。
2020年1月の記事(「住まいの断熱と“頻尿”のカンケイ」)では、就寝前の居間の室温が高い住環境においては過活動膀胱が抑制されるとの研究成果を紹介した。

「過活動膀胱」(以下、OAB=overactive bladderの略称)は、膀胱が過敏になり尿がうまくためられなくなる病気で、我慢できないほどの急な尿意や頻尿、夜間頻尿などの症状で知られる。
今では1千万人近くの国民が悩まされているという、私たちにとって身近な病気の一つだ。
今回はOABの治療コストと、住まいの暖房費との比較から、断熱性能向上の必要性に迫った最近の研究成果を紹介したい。

 

■過活動膀胱の罹患(りかん)に伴う費用は一人当たり年間10万円

この研究成果は、2022年2月18日に開催された日本サステナブル建築協会の「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第6回報告会」で、北九州市立大学の安藤真太朗准教授によって報告された。

ここでは、安藤准教授が報告会で用いた資料に基づいて見ていきたい。

まず、前提となるOAB関連コストについて、40歳以上を対象にした調査では、治療費や関連費用、労働損失などを合わせて一人当たり1年間で約10万円と試算されている。

 

 

■室内が寒くなるにつれて有病率は増加

OABの有病率は室内の温熱環境と密接に関係している。
就寝前の居間の室温を「18℃以上」「15~17.9℃」「12~14.9℃」「12℃未満」の4段階に分けて有病率の推計を比較すると、それがはっきりと見て取れる。
18℃以上で10.4%だった有病率は、室温が下がるにつれて増加し、12℃未満では14.9%に上った。
室温が低くなるほど、OABにかかりやすくなるというわけだ。

 

■暖房費を考慮してもOAB関連費用の抑制でコスト削減に

有病率が上がれば、医療費などの関連コストも増える。
実際、就寝前の室温が下がるにつれて、男女ともOAB関連費用は増えている。
12℃未満と18℃以上を比較すると、12℃未満は男性で年間約6,100円の負担増、同じく女性で年間約2,900円の負担増となっている。
つまり夫婦2人で考えると、室内が寒い家は暖かい家に比べて、実に年間約9,000円の追加コストが生じることになる。

 

しかし、暖かい住まいを実現してOAB関連の負担を低減させたとして、そのための暖房費負担を考慮に入れてもコスト削減は可能なのだろうか。

研究によると、冬季の就寝前の暖房費を考慮しても、室温18℃以上の温熱環境を作り出すことで、OAB関連費用と暖房の追加費用を合わせた総費用は1世帯あたり年間3,593円のコスト削減効果が期待できるという。

 

室内を温かくすることでOABのリスクと費用を低減できれば、コスト削減効果は暖房費の負担を大きく上回るといえる。

 

■住まいの断熱性能を高めればコスト削減効果はさらに増大

では、暖房費が少なくて済む、断熱性能を高めた住まいのコスト削減効果はどうだろう。

室温18℃の場合、HEAT20(一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)のG2基準相当(断熱等級6に相当)で1世帯あたり年間6,300円のコスト削減効果が期待できるという。
さらに高効率エアコンを導入すれば、その効果は同じく年間6,930円にまで増大すると見込まれている。

断熱性能が向上するほどコスト削減効果も大きくなることが分かる。

 

■“健康コスト”が示す「暖かい住まい」の便益の大きさ

住まいの断熱性能が高いほど、暖房にかかる費用が少なくて済む上に、過活動膀胱のような寒さに強く影響を受ける疾病の治療に関連するコストも削減できる。
私たちの命に直結する心疾患などの疾病についても、寒い室内環境が罹患のリスクを高めることが証明されつつある。

断熱性能を向上させた、暖房に頼らない「暖かい住まい」がもたらす便益の大きさは、“健康に関わるコスト”の面からも明らかにされてきている。
今後のさらなる研究の進展に注目していきたい。

 

◆データ出典/スマートウェルネス住宅等推進調査委員会・研究企画委員会発表資料(2022年2月18日)
※図表も上記資料より

日本の住宅の常識に変革迫る地方発のうねり

脱炭素社会の実現に向けて、国に先駆けた自治体独自の取り組みが増えている。
立ち遅れが指摘される国とは対照的に、欧米並みを目指す積極姿勢が目立つ。

その中でも、鳥取県の先進的な取り組みが注目を集めている。

 

■欧米並みの独自基準「とっとり健康省エネ住宅『NE-ST』」

鳥取県が展開する「とっとり健康省エネ住宅『NE-ST』」(以下「NE-ST」)は、省エネ基準の先進地である欧米並みの基準を設けている。

省エネ基準はT-G1、T-G2、T-G3の3段階。
各段階のUA値(断熱性能を示す数値で、数字が小さくなるほど性能が高い)を見れば、その先進性は一目瞭然だ。

 
冷暖房費を抑えるために必要な「最低限レベル」とされるT-G1では0.48。
国がこの6月に建築物省エネ法を改正し、2025年度から適合義務化される断熱等級4(UA値0.87)をはるかに上回り、欧米諸国の基準(同0.43~0.36)に近い。

「推奨レベル」のT-G2は0.34で欧米の基準を上回り、「最高レベル」のT-G3に至っては0.23と、HEAT20で最高ランクのG3と同水準だ。

また、普及促進のため最大150万円の補助制度も設けた。

 
■年頭記者会見で知事自ら号砲

鳥取県が独自の省エネ住宅政策を表明したのは、2020年1月6日に行われた平井伸治知事の年頭記者会見だった。


※鳥取県公式Webサイト内「知事記者会見動画」より

平井知事は、「省エネ住宅の新しい基準を県独自につくることにしたい」と語り、「国の基準は実は国際基準より緩やか。県独自に少し厳しめの背伸びした基準を考える」と踏み込んだ。

 
■省エネ向上で住まい手の健康確保を

今年2月にオンライン開催された「グリーン建築フォーラム」の第35回セミナーでの鳥取県による資料では、独自基準の策定理由として以下の五つを挙げている。

1. 住宅の省エネ(断熱)性能は住まい手の健康に大きく影響
2. 国の省エネ基準では経済的にトイレや浴室まで家全体を暖めることは難しい
3. 国の基準を上回る公的な基準がなく、施主が高い性能を選択できない
4. 既存住宅の省エネ改修は新築に比べて大きなコストがかかる
5. 健康寿命の延伸による社会保障費の削減が期待される

注目すべきは、単に省エネだけを目指すのではなく、住まい手の健康をいかに確保するかという視点が打ち出されていることだ。
欧米並みの独自基準策定の根底には、こうした「住まい手の健康」への問題意識があった。

 
■表れた成果

「NE-ST」は、「県の技術研修を受講し、登録された事業者が設計・施工を行うこと」を認定要件としており、施工の登録事業者は県内の住宅供給事業者の約7割に当たる140社にのぼるという。

背景にあるのは、技術研修の開催など事業者のレベルアップを図る取り組みだ。
研修後には考査が実施され、合格者が所属する事業者が登録される。

省エネ計算研修には事業者だけでなく県職員も参加し、審査する側の習熟も図られている。

一方で、ユーザー側に理解を深めてもらうため、「啓蒙活動」にも取り組んでいる。
事業者が高断熱・高気密住宅のメリットをわかりやすく伝えるための「伝え方研修」、消費者向けの現場見学会などだ。

実際、2021年度の新築戸建て住宅における「NE-ST」の割合は23%で、前年度比9ポイント増加した。

 
■リフォーム、賃貸にも独自基準

県内の既存住宅の9割以上が国の省エネ基準を下回っている現状を踏まえ、独自の改修基準「Re NE-ST」(UA値0.48)を策定し、省エネ性能向上のリフォーム促進も図っている。

 
賃貸住宅の高断熱化を進めるため、「NE-ST」の基準を満たす賃貸集合住宅の新築や改修への補助制度も設けた。

新築住宅はもちろんリフォームや賃貸住宅までカバーした「NE-ST」は、そのスローガンである「すべての人に暖かい住まいを」という理念を現実のものにする取り組みと言えるのではないだろうか。

 
■自治体独自の取り組み次々と

こうした取り組みは他の自治体にも広がっている。
例えば、山形県の「やまがた健康住宅基準」や長野県の「信州健康ゼロエネ住宅」は、鳥取と同様、欧米並みの基準を設け、認証された住宅への補助制度もある。

東京都も独自の基準を満たした「東京ゼロエミ住宅」に補助金を出し、省エネ住宅の普及を図っている。

 
■地方発の先駆けを日本の取り組み加速の推進力に

省エネ住宅を巡る自治体独自の取り組みは、待ったなしの脱炭素社会の実現、少子高齢化による社会保障費の増大など、厳しさを増す地域課題を解決し、より良い未来を築く意欲の表れにも見える。

地方発のうねりを推進力に、日本全体の取り組みが加速することを期待したい。

 
※記事中の図表は令和4年2月16日「グリーン建築フォーラム」資料より

「CASBEE-感染症チェックリスト」を住まいの感染症対策の手がかりに

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、住まいにおける感染対策の重要性にも注目が集まるようになった。
ただ、一口に「住まいの感染対策」と言っても、住まい手の生活行動からそれを支える建物の性能・仕様まで、考慮すべきポイントは幅広い。
 
一般社団法人日本サステナブル建築協会は2022年5月、その手がかりとなるツールを公開した。
SDGs-スマートウェルネス住宅研究企画委員会が作成した「CASBEE-感染対策チェックリスト(住宅版、オフィス版)」だ。

同協会はすでに住まいの健康性を診断できる「CASBEE健康チェックリスト」(当サイトの2021年8月の記事に掲載)を公開している。
さらに「感染対策チェックリスト」が加わったことで、健康な暮らしにつながる住まいから感染症対策まで、住まいについての重要な「気づき」を得られるツールが拡充された。

※CASBEE(建築環境総合性能評価システム)は、建築物の環境性能を総合的に評価するシステム。2002年に最初のツールが開発されて以降、法制度や社会の変化に応じて継続的な改定や新たなツールの開発がなされている。

 

■「感染対策チェックリスト」の目的と構成

ここでは、「感染対策チェックリスト(住宅版)」について見ていきたい。

冒頭には、「住まいにおける行動のポイントに気づき、それらに関連した住宅の備えについて、考える手がかりとしていただくこと」と、その目的が明示されている。

 
質問は全15項目で、「はい」か「いいえ」で答える形式。
社会や家族の状況に応じて「平常時」「感染拡大時」「家族の感染が疑われる場合」の3段階に分かれており、各設問に答えることで、まずは自らの行動をチェックし、次により行動しやすく、より効果的な「住まいの備え」を考えることができる構成になっている。

 

■参考になる「対策のヒント集」

特に注目すべきは、一連の質問の後にある「行動と住まいの備え 対策のヒント集」だ。
各質問に対する「行動による対策」と「住まいの備え」が並び、具体的かつ詳細に、わかりやすく解説している。

自らや家族の行動で気をつけるべきポイントは何か、住まいの環境についてどんなことに配慮し、どのような工夫が考えられるのか――。
現在の住まいでできることから、リフォームや新築の際に取り組むことまでが示され、実際の住まいの状況に合わせて検討するためのヒントが満載だ。

 
例えば、「平常時」の対策の一つに挙げられている「部屋の換気や適切な室温と湿度の維持」について、必要に応じた冷暖房の使用や除湿・加湿に努める「行動」、換気時の外気取入経路を考慮した冷暖房設備の配置、住まいの断熱性能を高める改修などの「備え」が提示されている。

人との接触機会の抑制・回避が必要な「感染拡大時」は、帰宅してすぐの入浴や着替えなどが推奨され、「玄関から直接浴室に行ける動線」の確保など感染リスクの低減に有効な工夫が示されている。

より深刻な「家族の感染が疑われる場合」では、換気の徹底、こまめな消毒をはじめ、感染が疑われる家族とその他の家族の生活空間や動線の分離、療養している部屋から直接屋外に排気する換気設備の設置など、家族内での感染拡大を防ぐ対策が提案されている。

 

■チェックリストの活用で感染症から家族を守る住まいに

新型コロナウイルスに翻弄された約2年半の間に、私たちは感染状況に応じた対策の必要性を学んだ。
しかし、自らの生活に対策を落とし込むとき、何から始め、どのような工夫をすべきか、戸惑う人も多いのではないだろうか。

世界各国でようやくコロナ対策が緩和されつつあるが、インフルエンザはもちろん、新たな感染症への懸念は尽きない。

 

「CASBEE-感染対策チェックリスト」はコロナ対策を踏まえた表現となっているが、そこでも言及されている通り、「建築衛生を確保するための基本的要求」にかない、「インフルエンザ等も含めた他の感染症予防にも貢献」できる内容になっている。

感染症の脅威を実感したこの機会に、ぜひ自らの住まいと住まい方について家族でチェックし、有効な対策に役立てていただきたい。

 

「CASBEE-感染対策チェックリスト(住宅版)」
https://www.jsbc.or.jp/research-study/casbee/tools/files/Infection-control_checklist_home.pdf

「CASBEE-感染対策チェックリスト(オフィス版)」
https://www.jsbc.or.jp/research-study/casbee/tools/files/Infection-control_checklist_office.pdf

※以前紹介した「CASBEE健康チェックリスト」についても、未実施の方はこの機会にぜひチェックを。
https://www.jsbc.or.jp/CASBEE/health_check/index.html

脱炭素社会へ一歩、住宅の断熱・省エネ性能向上に向け法案成立へ

4月22日、脱炭素社会の実現に向けて待ち望まれていた重要政策が閣議決定された。
住宅をはじめ新築する全ての建築物の省エネ性能を向上させるための「建築物省エネ法改正案」だ。
今国会(6月15日閉会見込み)に提出され、成立する見通しとなった。
世界から大きく遅れてきた日本の住宅の省エネルギー政策が、ようやくスタートラインに立つ。
2050年までのカーボンニュートラルを目指す日本にとって、エネルギー消費量の3割を占める建築物分野での取り組みは、脱炭素社会の実現に向けて大きな一歩となる。


[国交省 プレスリリース(2022年4月22日)]

 

■「建築物省エネ法改正案」のポイントは?

改正法案は、これまでオフィスビルなどの中・大規模の非住宅が対象だった断熱性能などの省エネ基準を、2025年度から住宅をはじめ新築する全ての建築物に義務付ける内容。
成立すれば、2025年度から断熱等級4が適合義務化され、これを下回る住宅は建てられなくなる。
既存住宅についても、省エネ改修に対する低利融資制度が新設される。

 

■20年以上も塩漬けにされた断熱等級

ただ、ここに至る道のりは長かった。

2020年10月26日、菅義偉前首相が「2050年までのカーボンニュートラル実現」を宣言。あらゆる分野で脱炭素化、省エネ性能向上への取り組みが進む中で、住宅を巡る政策は後れを取ってきた。

断熱性能については、1999年に制定された断熱等級4が最高という状態が四半世紀近く続いた。
この間、自動車業界も家電業界も省エネ性能は大きく向上。
ところが、住宅業界では、早くから等級4をはるかに超える性能を実現してきた住宅会社が数多く存在する一方、政府の省エネ対策導入の遅れから、断熱性能が不十分で多くのエネルギーを消費する住宅もまた建てられ続けた。

当初は2020年までに予定されていた住宅への省エネ基準の適合義務化も先送りされていた。

 

■有識者・住宅業界からの働きかけが停滞感を打破

そこに風穴を開けたのが、2021年2月24日に開かれた「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の第5回会合だった。
前真之・東京大学大学院准教授が「真の省エネは健康・快適な暮らしとセットであり、健康・快適は日本の全ての家で実現すべき基本性能」と鋭く指摘。
これに対して、河野太郎規制改革担当大臣(当時)は「外相時代、欧州の関係者から日本の建築物の省エネの取り組みが遅れているとずいぶん聞かされた。住環境が全く改善されるきざしがないのは大きな問題」と応じ、「最大限の省エネを最大限のスピードでやるのが必須」と言い切った。


[2021年2月24日にLIVE配信された第5回総点検タスクフォース]

 

これ以降、住宅の省エネ政策は加速し始めた。

断熱等級は大きく前進。
2022年4月には、実に23年ぶりに上位等級となる断熱等級5が新設された。
さらに、10月には断熱等級6、7がスタートする。

※断熱等級5はZEH基準の水準にある断熱性能で、断熱等級6はHEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)による基準で3段階のうち2番目に高いG2に準拠した断熱性能。その上位にHEAT20で最高ランクのG3に準拠した断熱等級7がある。

 

また、建築家の竹内昌義・東北芸術工科大学教授が発起人となり、「建築物省エネ法改正案」の国会への早期提出を求める署名活動を展開。
1万5,000人を超える個人と450を超える団体から寄せられた署名は2022年4月、政府・与党に提出され、法改正の機運を大きく後押しした。


[竹内氏が立ち上げたキャンペーンには多くの賛同の声が集まった]

 

■より一層の住宅の性能向上が今後求められる

2030年までに、断熱等級5が適合義務化の見通しと言われている。
北洲をはじめ、独自の基準を設けて高性能住宅をつくり続けてきた住宅会社にとって、高いレベルの省エネ基準が早期に義務化されることは喜ばしい。
その一方で、必要最低限の性能で良しとする家づくりをしてきた業者には、取り組みの転換が厳しく求められることになるだろう。

既存住宅についても、省エネ改修を促す制度が設けられ、性能向上のリノベーションが社会的にも要求されるようになる。

 

■これからが正念場、試される日本の本気度

「暖かく、省エネルギーで、快適・健康に暮らせる高性能住宅」を、多くの国民にとって身近なものとするための一歩が、ようやく踏み出されようとしている。
住宅の省エネ政策で世界から大きく後れを取ってきた日本が、脱炭素社会の実現に向けてどのように取り組むのか。
その本気度が試されている。

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