結露と湿度の関係を知り、冬の悩みを解消するには

冬になると私たちを悩ませる結露。
換気などの対策が毎年呼びかけられるが、改善は容易ではない。
結露と湿度の関係やメカニズムを知り、根本的な対策を講じることが重要だ。

 

■結露はどうしてできる?

空気中には水蒸気の状態で必ず水分が含まれている。
どのぐらいの量の水蒸気を空気中に含むことができるかは、空気の温度によって変化する。
暖かい空気ほど水蒸気を多く含むことができるが、冷えていくに従って含み得る水蒸気の量は減っていく。

水蒸気が飽和状態になる温度を露点温度と言い、さらに空気の温度が下がり水蒸気が最大量(飽和水蒸気量)を超えると、空気はすべての水分を水蒸気の状態で保持することができなくなり霧や水滴が発生する。

これが結露だ。

 

 

■低断熱・低気密住宅ほど結露に悩まされやすい

家の中の温度差が大きく、窓際や壁際など空気が冷やされた場所がある低断熱・低気密住宅ほど結露が発生しやすい。
暖房によって温められた空気が、窓表面や壁表面で急激に冷やされて結露が生じるためだ。
さらに表面だけでなく、壁の中に侵入する空気も露点温度に達すると結露の原因となる。

■健康リスクを高める要因に

湿度に関連したさまざまな健康への影響を最小限に抑えるため、住まいの湿度の適正範囲は40~60%と言われており、建築物衛生法でも40~70%とされている。

湿度が40%を下回ると乾燥状態となり、インフルエンザなどのウイルス感染リスクが高まるほか、目や肌の乾燥などの問題が生じる。

一方、湿度が上がり過ぎると、カビやダニが発生しやすくなり、アレルギー疾患のリスクが高まる。

※高湿度状態の健康への影響については、「健康的な暮らしをおびやかす“ダンプネス”」(2021年5月28日掲載)も参照。

 

それだけではない。

窓ガラスや窓枠、窓際の床が水滴で濡れ、木のフローリングにカビが生えたり腐ったりするなど、木材や仕上材の汚損や腐朽、断熱材の性能低下により、建物の寿命を縮めることにつながってしまう。

 

■暖房器具によっては結露が発生しやすくなることも

暖房器具を使って室内の温度を高めさえすれば結露を防げるのだろうか。
残念ながら、暖房器具の種類によってはむしろ結露が生じやすくなる。

 

石油ストーブや石油ファンヒーターなど、室内の空気を使って燃焼する暖房器具は水分が発生する。灯油1リットルが燃焼すると、1.1リットルの水分が出るとされている。

エアコンや電気ストーブなど水分が出ない暖房器具でも、家の中に温度差が存在する限り結露の発生をなくすことはできない。

洗濯物の室内干しや調理など、日常生活のさまざまな場面で水蒸気が発生しており、暖房の選択によっては結露の発生を助長してしまうことになる。

 

■こまめな換気や除湿には限界も

結露対策として、こまめな窓の開放や換気扇の活用による換気で、水蒸気を屋外に排出する方法が呼びかけられている。
また、湿気は暖かい場所から寒い場所に移動するため、湿気がたまりやすい水回りや収納の空気を入れ替えたり、除湿機や乾燥剤を活用したりする方法もある。

しかし、これらは手間がかかる割に根本的な対策にはなり得ない。

 

■最も有効な解決策は「温度差をなくすこと」

結露の解決に最も有効な対策は、住宅内の「温度差をなくすこと」。
断熱・気密の性能を高めて、外の寒さの影響を受けにくく、家の中に冷たい場所がないようにすることが重要になる。

断熱性能を高めれば、室温を低く設定しても十分な暖かさを手に入れることができ、結露が発生しにくい上に、乾燥対策の面でも緩和が期待できる。

■注目すべき窓まわりの断熱性能改善

住宅の断熱性能を高める上で、まず着手すべきは熱の出入りが大きい開口部、特に熱を通しやすい窓の改善だ。
窓などの開口部からの熱損失は、冬の暖房時の熱の約6割に及ぶとされる。

内窓の設置やサッシの交換で断熱性能を高めるだけでも、大幅な改善が見込める。

実際、築30年の仙台市のあるマンションでは、リフォームで内窓を設置したことにより、冬には一桁にまで下がっていた窓まわりの表面温度が20℃にまで改善された。

 

■しっかりした対策で健康リスク回避を

断熱性能を高めて温度差のない住宅環境を作り出すことが、私たちを結露の悩みから解放してくれる。
さまざまな健康リスクから身を守るためにも、しっかりとした対策が求められる。

 

 

医療費と暖房費のコスト比較が示す高断熱化の恩恵

住まいを高断熱化することによって得られる健康面での恩恵について、当サイトではこれまでさまざまな視点から記事を掲載してきた。
2020年1月の記事(「住まいの断熱と“頻尿”のカンケイ」)では、就寝前の居間の室温が高い住環境においては過活動膀胱が抑制されるとの研究成果を紹介した。

「過活動膀胱」(以下、OAB=overactive bladderの略称)は、膀胱が過敏になり尿がうまくためられなくなる病気で、我慢できないほどの急な尿意や頻尿、夜間頻尿などの症状で知られる。
今では1千万人近くの国民が悩まされているという、私たちにとって身近な病気の一つだ。
今回はOABの治療コストと、住まいの暖房費との比較から、断熱性能向上の必要性に迫った最近の研究成果を紹介したい。

 

■過活動膀胱の罹患(りかん)に伴う費用は一人当たり年間10万円

この研究成果は、2022年2月18日に開催された日本サステナブル建築協会の「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第6回報告会」で、北九州市立大学の安藤真太朗准教授によって報告された。

ここでは、安藤准教授が報告会で用いた資料に基づいて見ていきたい。

まず、前提となるOAB関連コストについて、40歳以上を対象にした調査では、治療費や関連費用、労働損失などを合わせて一人当たり1年間で約10万円と試算されている。

 

 

■室内が寒くなるにつれて有病率は増加

OABの有病率は室内の温熱環境と密接に関係している。
就寝前の居間の室温を「18℃以上」「15~17.9℃」「12~14.9℃」「12℃未満」の4段階に分けて有病率の推計を比較すると、それがはっきりと見て取れる。
18℃以上で10.4%だった有病率は、室温が下がるにつれて増加し、12℃未満では14.9%に上った。
室温が低くなるほど、OABにかかりやすくなるというわけだ。

 

■暖房費を考慮してもOAB関連費用の抑制でコスト削減に

有病率が上がれば、医療費などの関連コストも増える。
実際、就寝前の室温が下がるにつれて、男女ともOAB関連費用は増えている。
12℃未満と18℃以上を比較すると、12℃未満は男性で年間約6,100円の負担増、同じく女性で年間約2,900円の負担増となっている。
つまり夫婦2人で考えると、室内が寒い家は暖かい家に比べて、実に年間約9,000円の追加コストが生じることになる。

 

しかし、暖かい住まいを実現してOAB関連の負担を低減させたとして、そのための暖房費負担を考慮に入れてもコスト削減は可能なのだろうか。

研究によると、冬季の就寝前の暖房費を考慮しても、室温18℃以上の温熱環境を作り出すことで、OAB関連費用と暖房の追加費用を合わせた総費用は1世帯あたり年間3,593円のコスト削減効果が期待できるという。

 

室内を温かくすることでOABのリスクと費用を低減できれば、コスト削減効果は暖房費の負担を大きく上回るといえる。

 

■住まいの断熱性能を高めればコスト削減効果はさらに増大

では、暖房費が少なくて済む、断熱性能を高めた住まいのコスト削減効果はどうだろう。

室温18℃の場合、HEAT20(一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)のG2基準相当(断熱等級6に相当)で1世帯あたり年間6,300円のコスト削減効果が期待できるという。
さらに高効率エアコンを導入すれば、その効果は同じく年間6,930円にまで増大すると見込まれている。

断熱性能が向上するほどコスト削減効果も大きくなることが分かる。

 

■“健康コスト”が示す「暖かい住まい」の便益の大きさ

住まいの断熱性能が高いほど、暖房にかかる費用が少なくて済む上に、過活動膀胱のような寒さに強く影響を受ける疾病の治療に関連するコストも削減できる。
私たちの命に直結する心疾患などの疾病についても、寒い室内環境が罹患のリスクを高めることが証明されつつある。

断熱性能を向上させた、暖房に頼らない「暖かい住まい」がもたらす便益の大きさは、“健康に関わるコスト”の面からも明らかにされてきている。
今後のさらなる研究の進展に注目していきたい。

 

◆データ出典/スマートウェルネス住宅等推進調査委員会・研究企画委員会発表資料(2022年2月18日)
※図表も上記資料より

日本の住宅の常識に変革迫る地方発のうねり

脱炭素社会の実現に向けて、国に先駆けた自治体独自の取り組みが増えている。
立ち遅れが指摘される国とは対照的に、欧米並みを目指す積極姿勢が目立つ。

その中でも、鳥取県の先進的な取り組みが注目を集めている。

 

■欧米並みの独自基準「とっとり健康省エネ住宅『NE-ST』」

鳥取県が展開する「とっとり健康省エネ住宅『NE-ST』」(以下「NE-ST」)は、省エネ基準の先進地である欧米並みの基準を設けている。

省エネ基準はT-G1、T-G2、T-G3の3段階。
各段階のUA値(断熱性能を示す数値で、数字が小さくなるほど性能が高い)を見れば、その先進性は一目瞭然だ。

 
冷暖房費を抑えるために必要な「最低限レベル」とされるT-G1では0.48。
国がこの6月に建築物省エネ法を改正し、2025年度から適合義務化される断熱等級4(UA値0.87)をはるかに上回り、欧米諸国の基準(同0.43~0.36)に近い。

「推奨レベル」のT-G2は0.34で欧米の基準を上回り、「最高レベル」のT-G3に至っては0.23と、HEAT20で最高ランクのG3と同水準だ。

また、普及促進のため最大150万円の補助制度も設けた。

 
■年頭記者会見で知事自ら号砲

鳥取県が独自の省エネ住宅政策を表明したのは、2020年1月6日に行われた平井伸治知事の年頭記者会見だった。


※鳥取県公式Webサイト内「知事記者会見動画」より

平井知事は、「省エネ住宅の新しい基準を県独自につくることにしたい」と語り、「国の基準は実は国際基準より緩やか。県独自に少し厳しめの背伸びした基準を考える」と踏み込んだ。

 
■省エネ向上で住まい手の健康確保を

今年2月にオンライン開催された「グリーン建築フォーラム」の第35回セミナーでの鳥取県による資料では、独自基準の策定理由として以下の五つを挙げている。

1. 住宅の省エネ(断熱)性能は住まい手の健康に大きく影響
2. 国の省エネ基準では経済的にトイレや浴室まで家全体を暖めることは難しい
3. 国の基準を上回る公的な基準がなく、施主が高い性能を選択できない
4. 既存住宅の省エネ改修は新築に比べて大きなコストがかかる
5. 健康寿命の延伸による社会保障費の削減が期待される

注目すべきは、単に省エネだけを目指すのではなく、住まい手の健康をいかに確保するかという視点が打ち出されていることだ。
欧米並みの独自基準策定の根底には、こうした「住まい手の健康」への問題意識があった。

 
■表れた成果

「NE-ST」は、「県の技術研修を受講し、登録された事業者が設計・施工を行うこと」を認定要件としており、施工の登録事業者は県内の住宅供給事業者の約7割に当たる140社にのぼるという。

背景にあるのは、技術研修の開催など事業者のレベルアップを図る取り組みだ。
研修後には考査が実施され、合格者が所属する事業者が登録される。

省エネ計算研修には事業者だけでなく県職員も参加し、審査する側の習熟も図られている。

一方で、ユーザー側に理解を深めてもらうため、「啓蒙活動」にも取り組んでいる。
事業者が高断熱・高気密住宅のメリットをわかりやすく伝えるための「伝え方研修」、消費者向けの現場見学会などだ。

実際、2021年度の新築戸建て住宅における「NE-ST」の割合は23%で、前年度比9ポイント増加した。

 
■リフォーム、賃貸にも独自基準

県内の既存住宅の9割以上が国の省エネ基準を下回っている現状を踏まえ、独自の改修基準「Re NE-ST」(UA値0.48)を策定し、省エネ性能向上のリフォーム促進も図っている。

 
賃貸住宅の高断熱化を進めるため、「NE-ST」の基準を満たす賃貸集合住宅の新築や改修への補助制度も設けた。

新築住宅はもちろんリフォームや賃貸住宅までカバーした「NE-ST」は、そのスローガンである「すべての人に暖かい住まいを」という理念を現実のものにする取り組みと言えるのではないだろうか。

 
■自治体独自の取り組み次々と

こうした取り組みは他の自治体にも広がっている。
例えば、山形県の「やまがた健康住宅基準」や長野県の「信州健康ゼロエネ住宅」は、鳥取と同様、欧米並みの基準を設け、認証された住宅への補助制度もある。

東京都も独自の基準を満たした「東京ゼロエミ住宅」に補助金を出し、省エネ住宅の普及を図っている。

 
■地方発の先駆けを日本の取り組み加速の推進力に

省エネ住宅を巡る自治体独自の取り組みは、待ったなしの脱炭素社会の実現、少子高齢化による社会保障費の増大など、厳しさを増す地域課題を解決し、より良い未来を築く意欲の表れにも見える。

地方発のうねりを推進力に、日本全体の取り組みが加速することを期待したい。

 
※記事中の図表は令和4年2月16日「グリーン建築フォーラム」資料より

「CASBEE-感染症チェックリスト」を住まいの感染症対策の手がかりに

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、住まいにおける感染対策の重要性にも注目が集まるようになった。
ただ、一口に「住まいの感染対策」と言っても、住まい手の生活行動からそれを支える建物の性能・仕様まで、考慮すべきポイントは幅広い。
 
一般社団法人日本サステナブル建築協会は2022年5月、その手がかりとなるツールを公開した。
SDGs-スマートウェルネス住宅研究企画委員会が作成した「CASBEE-感染対策チェックリスト(住宅版、オフィス版)」だ。

同協会はすでに住まいの健康性を診断できる「CASBEE健康チェックリスト」(当サイトの2021年8月の記事に掲載)を公開している。
さらに「感染対策チェックリスト」が加わったことで、健康な暮らしにつながる住まいから感染症対策まで、住まいについての重要な「気づき」を得られるツールが拡充された。

※CASBEE(建築環境総合性能評価システム)は、建築物の環境性能を総合的に評価するシステム。2002年に最初のツールが開発されて以降、法制度や社会の変化に応じて継続的な改定や新たなツールの開発がなされている。

 

■「感染対策チェックリスト」の目的と構成

ここでは、「感染対策チェックリスト(住宅版)」について見ていきたい。

冒頭には、「住まいにおける行動のポイントに気づき、それらに関連した住宅の備えについて、考える手がかりとしていただくこと」と、その目的が明示されている。

 
質問は全15項目で、「はい」か「いいえ」で答える形式。
社会や家族の状況に応じて「平常時」「感染拡大時」「家族の感染が疑われる場合」の3段階に分かれており、各設問に答えることで、まずは自らの行動をチェックし、次により行動しやすく、より効果的な「住まいの備え」を考えることができる構成になっている。

 

■参考になる「対策のヒント集」

特に注目すべきは、一連の質問の後にある「行動と住まいの備え 対策のヒント集」だ。
各質問に対する「行動による対策」と「住まいの備え」が並び、具体的かつ詳細に、わかりやすく解説している。

自らや家族の行動で気をつけるべきポイントは何か、住まいの環境についてどんなことに配慮し、どのような工夫が考えられるのか――。
現在の住まいでできることから、リフォームや新築の際に取り組むことまでが示され、実際の住まいの状況に合わせて検討するためのヒントが満載だ。

 
例えば、「平常時」の対策の一つに挙げられている「部屋の換気や適切な室温と湿度の維持」について、必要に応じた冷暖房の使用や除湿・加湿に努める「行動」、換気時の外気取入経路を考慮した冷暖房設備の配置、住まいの断熱性能を高める改修などの「備え」が提示されている。

人との接触機会の抑制・回避が必要な「感染拡大時」は、帰宅してすぐの入浴や着替えなどが推奨され、「玄関から直接浴室に行ける動線」の確保など感染リスクの低減に有効な工夫が示されている。

より深刻な「家族の感染が疑われる場合」では、換気の徹底、こまめな消毒をはじめ、感染が疑われる家族とその他の家族の生活空間や動線の分離、療養している部屋から直接屋外に排気する換気設備の設置など、家族内での感染拡大を防ぐ対策が提案されている。

 

■チェックリストの活用で感染症から家族を守る住まいに

新型コロナウイルスに翻弄された約2年半の間に、私たちは感染状況に応じた対策の必要性を学んだ。
しかし、自らの生活に対策を落とし込むとき、何から始め、どのような工夫をすべきか、戸惑う人も多いのではないだろうか。

世界各国でようやくコロナ対策が緩和されつつあるが、インフルエンザはもちろん、新たな感染症への懸念は尽きない。

 

「CASBEE-感染対策チェックリスト」はコロナ対策を踏まえた表現となっているが、そこでも言及されている通り、「建築衛生を確保するための基本的要求」にかない、「インフルエンザ等も含めた他の感染症予防にも貢献」できる内容になっている。

感染症の脅威を実感したこの機会に、ぜひ自らの住まいと住まい方について家族でチェックし、有効な対策に役立てていただきたい。

 

「CASBEE-感染対策チェックリスト(住宅版)」
https://www.jsbc.or.jp/research-study/casbee/tools/files/Infection-control_checklist_home.pdf

「CASBEE-感染対策チェックリスト(オフィス版)」
https://www.jsbc.or.jp/research-study/casbee/tools/files/Infection-control_checklist_office.pdf

※以前紹介した「CASBEE健康チェックリスト」についても、未実施の方はこの機会にぜひチェックを。
https://www.jsbc.or.jp/CASBEE/health_check/index.html

脱炭素社会へ一歩、住宅の断熱・省エネ性能向上に向け法案成立へ

4月22日、脱炭素社会の実現に向けて待ち望まれていた重要政策が閣議決定された。
住宅をはじめ新築する全ての建築物の省エネ性能を向上させるための「建築物省エネ法改正案」だ。
今国会(6月15日閉会見込み)に提出され、成立する見通しとなった。
世界から大きく遅れてきた日本の住宅の省エネルギー政策が、ようやくスタートラインに立つ。
2050年までのカーボンニュートラルを目指す日本にとって、エネルギー消費量の3割を占める建築物分野での取り組みは、脱炭素社会の実現に向けて大きな一歩となる。


[国交省 プレスリリース(2022年4月22日)]

 

■「建築物省エネ法改正案」のポイントは?

改正法案は、これまでオフィスビルなどの中・大規模の非住宅が対象だった断熱性能などの省エネ基準を、2025年度から住宅をはじめ新築する全ての建築物に義務付ける内容。
成立すれば、2025年度から断熱等級4が適合義務化され、これを下回る住宅は建てられなくなる。
既存住宅についても、省エネ改修に対する低利融資制度が新設される。

 

■20年以上も塩漬けにされた断熱等級

ただ、ここに至る道のりは長かった。

2020年10月26日、菅義偉前首相が「2050年までのカーボンニュートラル実現」を宣言。あらゆる分野で脱炭素化、省エネ性能向上への取り組みが進む中で、住宅を巡る政策は後れを取ってきた。

断熱性能については、1999年に制定された断熱等級4が最高という状態が四半世紀近く続いた。
この間、自動車業界も家電業界も省エネ性能は大きく向上。
ところが、住宅業界では、早くから等級4をはるかに超える性能を実現してきた住宅会社が数多く存在する一方、政府の省エネ対策導入の遅れから、断熱性能が不十分で多くのエネルギーを消費する住宅もまた建てられ続けた。

当初は2020年までに予定されていた住宅への省エネ基準の適合義務化も先送りされていた。

 

■有識者・住宅業界からの働きかけが停滞感を打破

そこに風穴を開けたのが、2021年2月24日に開かれた「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の第5回会合だった。
前真之・東京大学大学院准教授が「真の省エネは健康・快適な暮らしとセットであり、健康・快適は日本の全ての家で実現すべき基本性能」と鋭く指摘。
これに対して、河野太郎規制改革担当大臣(当時)は「外相時代、欧州の関係者から日本の建築物の省エネの取り組みが遅れているとずいぶん聞かされた。住環境が全く改善されるきざしがないのは大きな問題」と応じ、「最大限の省エネを最大限のスピードでやるのが必須」と言い切った。


[2021年2月24日にLIVE配信された第5回総点検タスクフォース]

 

これ以降、住宅の省エネ政策は加速し始めた。

断熱等級は大きく前進。
2022年4月には、実に23年ぶりに上位等級となる断熱等級5が新設された。
さらに、10月には断熱等級6、7がスタートする。

※断熱等級5はZEH基準の水準にある断熱性能で、断熱等級6はHEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)による基準で3段階のうち2番目に高いG2に準拠した断熱性能。その上位にHEAT20で最高ランクのG3に準拠した断熱等級7がある。

 

また、建築家の竹内昌義・東北芸術工科大学教授が発起人となり、「建築物省エネ法改正案」の国会への早期提出を求める署名活動を展開。
1万5,000人を超える個人と450を超える団体から寄せられた署名は2022年4月、政府・与党に提出され、法改正の機運を大きく後押しした。


[竹内氏が立ち上げたキャンペーンには多くの賛同の声が集まった]

 

■より一層の住宅の性能向上が今後求められる

2030年までに、断熱等級5が適合義務化の見通しと言われている。
北洲をはじめ、独自の基準を設けて高性能住宅をつくり続けてきた住宅会社にとって、高いレベルの省エネ基準が早期に義務化されることは喜ばしい。
その一方で、必要最低限の性能で良しとする家づくりをしてきた業者には、取り組みの転換が厳しく求められることになるだろう。

既存住宅についても、省エネ改修を促す制度が設けられ、性能向上のリノベーションが社会的にも要求されるようになる。

 

■これからが正念場、試される日本の本気度

「暖かく、省エネルギーで、快適・健康に暮らせる高性能住宅」を、多くの国民にとって身近なものとするための一歩が、ようやく踏み出されようとしている。
住宅の省エネ政策で世界から大きく後れを取ってきた日本が、脱炭素社会の実現に向けてどのように取り組むのか。
その本気度が試されている。

エコハウスの専門家 松尾和也氏が語る「暖かい住宅の重要性とメリット」

「断熱」や「省エネ」についての講演を数多く手掛け、全国各地の工務店への技術指導を精力的にこなしながら、YouTubeにも活躍の場を広げている「住宅業界のトップランナー」の一人、株式会社松尾設計室の松尾和也代表。
北洲本社に来社された際、多忙なスケジュールの中、インタビューする貴重な機会を得た。
松尾代表に「断熱」の重要性やメリット、今年3月刊行の新著『お金と健康で失敗しない 間取りと住まい方の科学(新建新聞社)』について伺った。

 


【プロフィール】
松尾和也さん(写真は当社応接室にて)
株式会社松尾設計室 代表取締役。一級建築士。APECアーキテクト。
1975年兵庫県生まれ。1998年九州大学工学部建築学科卒業(熱環境工学専攻)。
エコハウスに関する執筆や講演、技術指導を積極的に行っている。

 

 

■「断熱」についての世の中の関心は?

―東北で事業を展開している私たちからしても、まだまだ一般のお客様に「断熱」は響きにくいとの印象がありますが、松尾さんはどのように感じていますか。

松尾代表:東北に比べて寒さが緩やかな関西でも、断熱を求める人が少ないとは感じません。断熱の重要性は思っているよりは浸透しています。
国の求める基準はご存知のようにまだまだ低いのですが、私のようなYouTuberだけでなく、熱心に高性能住宅を提案し続けている企業や団体の地道な啓蒙活動によって、日本の消費者の知識はどんどんと底上げされてきています。この10年で状況は大きく変わってきています。それは私自身が強く肌で感じていることですね。

―そうなんですね。それは私たちにとっても嬉しいお話です。

 

■高断熱のメリットをどう伝えるか

―お客様の中には「冬は寒くて当たり前」という感覚の方もいます。これも断熱改修のハードルを上げている原因の一つではないかとの見方もあります。

松尾代表:「暖かい住まい」は、健康をはじめさまざまな面でメリットがあることを丁寧に説明することが重要です。私も、脳血管疾患や心疾患など重篤な病気だけでなく、皮膚のかゆみやぜんそく、アトピーなど家族の誰か一人は罹(かか)っているような疾患についても、断熱性能の向上で明らかに減ることを丁寧に説明しています。

例えば、今やテレビのゴールデンタイムでも健康関連番組がたくさん放送されていますよね。それほど国民の“健康”への関心は高いんです。
ただし、そうした番組で語られているのはほとんどが「食事」か「運動」なんですよね。
「居住空間」の重要性はまだまだ知られていない。
高断熱じゃなければいけないというよりも、室温を上げることがいかに健康にとって重要かということをしっかりと伝えていく必要がありますね。

―そうですね。その点は私たちもまだまだ努力が足りていない部分だと感じています。
住まい環境がいかに健康に寄与するかということを理解していながら、なかなかうまくお客様に伝えられていないと反省しています。

松尾代表:その時には、やはり伝え方が重要ですね。
納得を得るには、きちんと根拠を示して説明することが肝心です。
 
―幸せに豊かに暮らすためには、「経済的に失敗しない」という「お金」の側面と「健康に暮らす」という2つが重要なウエイトを占める、というお話を本にも書いていらっしゃいます。
確かに、リフォームを検討されているお客様には当然「予算」というものがついてまわるのですが、住宅性能を向上させるリフォームにかかる費用と今後の光熱費・冷暖房コストの関係をうまく説明する必要性も感じています。

松尾代表:そうですね。もっと言うと「トータルコスト」が重要です。
人によって「工事費+ランニングコスト=トータルコスト」は違いますから、トータルコストで考えることが大事です。そこには健康コストも関わってきますね。
例えば、脳梗塞になった場合、手術費用は平均で77万円。その後の生活にかかってくる費用を全部試算するとだいたい800万円くらいと言われています。
あくまでそれは一例ですが、リスクの高い住環境に身を置くことでかかるかもしれない費用も考慮に入れ、断熱改修でそのリスクを減らしてあげるということを検討してもらう必要があると考えています。

―ありがとうございます。
そうですね、お客様の立場に立って、暖かい住まいで暮らすことのメリットをコストの面からもしっかりと伝えていけるよう、心掛けていきたいと思います。

 

■当社の断熱改修の取り組みについての感想は?

―目先の費用ではなくトータルコストで考えてもらうという点においては、人間でいうところの“健康診断”に当たる「住まいの現状把握」がとても重要だと考えています。
当社では断熱リフォームを提案する際、「JJJ断熱診断」というツールを使い、既存の住まいの性能を数値化した上でプランニングする取り組みを進めています。改修後の計算値と比較してご提案すると、とても興味を持っていただけます。

松尾代表:あれは素晴らしいツールですが、実務で活用しているのはすごい。
もっとアピールした方がいいですよ。
大切なのは、一般の方々にもしっかりと納得できるように説明することです。将来病気になったときにどのくらい費用がかかるのか、介護費用はいくらか、客観的なデータとともに丁寧にご提案することが大切です。
行政や医療機関と連携した啓発活動も必要でしょう。
どこの市町村も医療・介護費用のひっ迫は切実です。
北洲さんほどの実績があれば、そうしたことにも取り組んでいけると思います。

―ありがとうございます。自分たちの取組みにさらに自信が持てました。
お客様のためにこれからも積極的に取り組んでいきたいと思います。

 

■気になる新著の内容は?

―最新の著書「お金と健康で失敗しない 間取りと住まい方の科学」は、一般の方にもとてもわかりやすい内容ですが、どんな読者をイメージして書かれたのですか。

松尾代表:新築やマンションの購入、賃貸物件を考えている人、現在の住まいで結露やカビに悩む人など、誰にでも役立つ内容です。
私がお客様に物件を引き渡す際に、1時間かけて説明していることを本にしたイメージです。
それに加えて、友達にマンション選びやエアコン選びなどについてアドバイスするような感じの要素も盛り込んでまとめています。

 

■住まいの環境改善を考えている人へのアドバイスを

―最後に、今、住まいの環境を改善したい、家を暖かくしたいとお考えの方にアドバイスをお願いします。

松尾代表:世界中のほとんどの国や自治体において、最低室温規定というものが制定されています。大半が18℃以上と規定されていて、健康上理想的には21℃以上とされています。
これは世界中の多くの統計調査から導かれた、明らかな事実です。
多くの人たちにも知ってもらい、居住環境の改善を検討してもらいたいですね。

ただし、残念ながらリフォームで高断熱改修をきちんとできる会社は、北洲さんを含めて全国に数社しかないと思います。それ以外で探すのはきわめて難しい。
「じゃあどうすればいいの?」と聞かれたら、新築で高断熱ができる会社を探してリフォームを頼み込むしかないと答えるでしょう。
それぐらい、リフォームで高断熱化するのは難しいことなのです。
ここまで述べてきたように、「暖かい住まい」は健康についてはもちろん、生活のあらゆる面でメリットをもたらします。
それだけに、まずは高断熱改修で実績があり、信頼できる会社に相談することが大切です。

 

■インタビューを終えて

データに裏打ちされた説明、わかりやすく親しみやすい語り口。
エコハウスに関心がある人たちを中心に、YouTubeの登録者数・視聴数がうなぎのぼりの理由が垣間見えた。
松尾さんが強調していたのは、お客様のために具体的なメリットを提示する重要性、その根拠をしっかりと説明することの大切さだ。
住まいの環境が健康に及ぼす影響、暖かい住まいのメリットなど、リアルにわかりやすく伝える必要性を強く感じた。

 

◆最新の著書
「お金と健康で失敗しない 間取りと住まい方の科学」 株式会社新建新聞社、2022年3月刊

リフォーム支援事業の調査結果が示す「求められる断熱改修」

既存住宅の性能を向上させるリフォームは、省エネルギーの観点からもここ数年、国が力を入れて推進している分野の一つだ。さまざまな補助事業が創設され、後押ししている。
それでは、リフォームの目的、その結果見られた変化、当事者の実感はどのようなものだろうか。今年1月に公表された、令和2年度の「高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業」についての調査報告書が、それらを明らかにしている。

※同事業は「一般社団法人 環境共創イニシアチブ」を執行団体に、既存住宅の省CO₂と低炭素化を促進する断熱改修の支援を目的として、1次~3次公募(2020年5月~11月)が実施された。補助金交付は全国478件。調査報告書は、このうち320件についてのアンケート結果を分析した。

 

断トツで高い「断熱改修のニーズ」

リフォーム工事の実施理由として、断トツのトップは「室内の暑さ/寒さへの対策のため」(82.5%)で、2番目の「築年数に応じた老朽化のメンテナンスのため」(60.6%)を大きく引き離している。
断熱改修のニーズの高さがくっきりと表れていると言える。

 

戸建住宅、集合住宅とも断熱改修の理由は「リビングなどの環境改善」

断熱改修に焦点を当ててその目的を尋ねると、戸建住宅では、「リビングなど主な居室の暑さ/寒さといった環境を改善するため」が93.4%で突出している。

集合住宅でも、トップは同じく「リビングなど主な居室の環境改善」(74.3%)だが、2番手の「カビや結露の発生などの、宅内環境を改善するため」(65.7%)の割合の高さも注目される。

住宅の種類によるこうした違いは、リフォーム事業者としても納得の結果だ。

 

改修前後で暖房設定温度に変化が

断熱改修の前後での暖房設定温度の変化を見ると、改修前より設定温度を1℃以上下げた割合は77.1%にのぼる。
改修後の暖房設定温度が平均で2.3℃下がった、との結果も示されており、温熱環境の変化がはっきりと表れている。

 
さらに、改修による光熱費は、「安くなった」「やや安くなった」を合わせて70.7%。
リフォームは日々の家計のやりくりにも温かいようだ。

 

断熱改修への満足度は?

断熱改修への満足度は、「満足」「やや満足」を合わせて92.5%に達している。
居室の温熱環境の改善が一番の目的とされる中で、暖房設定温度も光熱費も下がった結果が表れていると言える。

 

実際、改修後の状況について、「暖かく快適に過ごせるようになった」(86.8%)との回答が他を大きく引き離してトップになっている。
2番目の「遮音性が上がり、外の音が気にならなくなった」(54.9%)は、断熱性向上の副次的なメリットとして、実際によく聞かれるものだ。
こうした結果は、今後リフォームを検討する人たちにとって、何よりの安心材料になるのではないだろうか。

 

一方で、報告書には「期待した程の断熱が感じられない」「室内ドアの施工が悪い為、断熱遮音が悪い」「結露が発生する」など、不満の声も示されている。
いずれも施工業者の質による問題との印象を覚える。

断熱改修の効果は確実にあり、その成否を左右する要素として、しっかりとした実績を持つ信頼できる施工業者に依頼することも重要だと、調査結果は示しているように思える。

 

重要性が増す既存住宅の性能向上リフォーム

脱炭素化を着実に進めることが求められる中で、既存住宅の断熱性能を向上させるリフォームは重要な役割を果たす。
コロナ禍や国際情勢の複雑化によるエネルギー価格の高騰などを考えれば、その重要性はさらに増すだろう。

国の後押しも上手に活用して、省エネと健康を両立し、経済性も備えた暖かい住まいを一人でも多くの人が実現してほしいものだ。

 

◆出典/一般社団法人 環境共創イニシアチブ「令和2年度 次世代省エネ建材支援事業 調査報告書(2022年1月)」
※図表も上記資料より引用

“暖かい住宅が座り過ぎを防ぐ” 温熱環境と身体活動の深い関係

徐々に春が近づいているとはいえ、まだまだ寒いこの時期。
屋内で過ごす時間が長くなると、どうしても座って過ごす時間が増え、身体を動かす活動が減ってしまう。
こうした身体活動と住宅の温熱環境の関係について、スマートウェルネス住宅等推進調査委員会・研究企画委員会が、興味深い研究成果を発表している。

 

座り過ぎは寿命を短くする

室内で過ごす時間が増えると、テレビの視聴やパソコンでの作業、読書など座って過ごす時間が長くなりがちだ。
快適な過ごし方に思える座位時間だが、長くなることで死亡リスクの上昇につながるようだ。
テレビの視聴時間と死亡リスクの調査結果にそれが表れている。


 ※1時間以内を1とした視聴時間ごとの死亡リスクのハザード比。横軸は視聴時間。

 
視聴時間が1日7時間以上の場合、1時間以内に比べて総死亡リスク(すべての原因による死亡リスク)は約60%高く、心血管疾患の死亡リスクでは85%も高い。
座り過ぎは、私たちの寿命を蝕む要因になっていると言える。

 

日本人の座位時間は世界屈指の長さ

日本人にとって驚きの調査結果がある。

世界20カ国・地域の平日1日当たりの座位時間を比較すると、日本は420分で世界平均(300分)を大きく上回る。これはサウジアラビアと並び最長だ。

 

コタツの使用や非居室が寒い日本の住宅

屋内で過ごすことが増える冬は、住宅内で少しでも身体を動かすようにし、座り過ぎを抑制することが重要になる。

しかし、日本ではコタツの使用や脱衣所などの非居室が寒い住宅が多い。
コタツの使用は座位姿勢を促し、非居室が寒いと居間で過ごす時間が増える上に、移動や脱衣に対する身体的苦痛や心理的抵抗から、座位行動の助長につながっているのではないか。
この問題について次のような調査結果がある。

 

コタツ使用や非居室の寒さが身体活動に及ぼす影響

「コタツを使用する場合、しない場合」「脱衣所を暖房する場合、しない場合」の住宅内の座位行動の差について、4年にわたる調査データから3,482名を分析した結果がある。

「コタツ使用なし(コタツ以外の暖房を使用)」は「コタツ使用あり」に比べ、座位時間が男性で-6分/日、女性で-8分/日と減少し、逆に身体活動は男女ともに増えている。
また、「脱衣所暖房あり」は「脱衣所暖房なし」より男性-5分/日、女性-8分/日で、身体活動についてもコタツの場合と同様の傾向を示した。

「コタツ使用なし」「脱衣所暖房あり」は、座位行動を抑制し、身体活動を促すと言えるだろう。

 

座位行動抑制にとって重要な住宅の温熱環境

この研究結果から、死亡リスクを高める座位行動を抑制する上で、住宅の温熱環境が鍵を握っていることがわかる。
つまり、省エネルギーの観点からも「住宅の断熱性能を高めること」が重要と言える。

断熱性能の低い住宅については、「暖房を適切に使用し、居室と非居室を暖かく保つことで、座位行動を抑制し、身体行動を促進させる可能性がある」との知見が示され、あわせて以下の方法が提案されている。
・居間などの居室 – 局所暖房を使用せず、部屋全体を暖める暖房を適切に使用
・脱衣所やトイレなどの非居室 – 寒さを我慢せず暖房を使用、滞在時だけでも暖房を使用

 

コロナ禍で住宅内の座位行動抑制がますます重要に

さらに、長引くコロナ禍が私たちの身体活動の減少にも影響している。
WHO(世界保健機関)によるパンデミック宣言後、世界各国・地域の1日当たりの平均歩数が10日間で5.5%(287歩)、30日間で27.3%(1432歩)減少した、との調査結果もある。

収束が見通せない一方で、テレワークの拡大など働き方の変化に伴い在宅時間が増えている。
こうした中で座位行動を抑制するには、住宅の断熱性能を高め、適切な温熱環境を実現することが、より一層重要になるだろう。

 

◆出典/スマートウェルネス住宅等推進調査委員会・研究企画委員会発表資料(2021年1月26日)
※図表も上記資料をもとに作成

高血圧のリスクが高い人ほど断熱改修を!

室温と血圧の関連については、重要なテーマとして何度か取り上げてきた。
今回は断熱改修の前後で血圧にどのような変化が現れるのか、また、対象者の属性によってどんな差があるのかという研究成果を元に、改めて断熱改修がもたらすメリットについて考えてみたい。
 

部屋間を移動する際の急激な温度変化が血圧に大きな影響を与えることはすでによく知られているが(=ヒートショック)、住まいの室温自体が変わることで住む人の血圧がどう変化するのかということについては、どのくらい知られているだろうか。

スマートウェルネス住宅等推進調査委員会では、改修前後の居住者の血圧や活動量等、健康への影響を2014年~2019年にわたって調査し、それ以降も追跡調査を継続している。
2021年1月26日に開かれた「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査」の第5回報告会で報告された知見の1つが「断熱改修の前後で、朝の最高血圧・最低血圧が有意に低下する」というものである。
分析結果は下記のとおり。
ベースラインの血圧、年齢の変化量、BMIの変化量、外気温の変化量を多変量解析により調整し、血圧の変化量を試算。それを断熱改修前の平均値と比べたものである。


※住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査「第5回報告会」資料より
 

起床時の最高血圧で3mmHg以上、最低血圧で2mmHg以上も下がっていることがわかる。

また、非常に興味深いのが「属性」別の違いである。
年齢や性別の違いの他、喫煙する人・しない人、飲酒習慣のある人・ない人、などいくつかの属性による差が明らかにされている。
これによると、いわゆる「循環器疾患のハイリスク者」ほど、断熱改修による効果が大きく現れているということがわかった。


※住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査「第5回報告会」資料より
 

まず第一に高血圧で通院している人とそうでない人の差が非常に大きく、高血圧を患っている人は断熱改修により7.7mmHgも最高血圧が低下している。
また、65歳以上の高齢者では65歳未満の方よりも血圧の低下量が大きく、断熱改修をすることで大きな恩恵を受けていることがわかった。
その他の属性で見ても、軒並みハイリスク者の改善メリットが大きい。
断熱改修の意義が力強く示された研究成果だろう。
 

今回は紹介できなかったが、「室温が安定している住宅では血圧の変動が小さい」ことを示すいくつかの研究成果も発表されている。
室温と血圧との関連については、今後さらに多くの知見が得られていくことが期待される。
今、“高血圧予防”という点では、食事や運動、飲酒、喫煙といった生活習慣が重視されているが、今後、この「室温環境」というものの影響が高く評価される日も近いのではないだろうか。

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