「断熱」や「省エネ」についての講演を数多く手掛け、全国各地の工務店への技術指導を精力的にこなしながら、YouTubeにも活躍の場を広げている「住宅業界のトップランナー」の一人、株式会社松尾設計室の松尾和也代表。
北洲本社に来社された際、多忙なスケジュールの中、インタビューする貴重な機会を得た。
松尾代表に「断熱」の重要性やメリット、今年3月刊行の新著『お金と健康で失敗しない 間取りと住まい方の科学(新建新聞社)』について伺った。

 


【プロフィール】
松尾和也さん(写真は当社応接室にて)
株式会社松尾設計室 代表取締役。一級建築士。APECアーキテクト。
1975年兵庫県生まれ。1998年九州大学工学部建築学科卒業(熱環境工学専攻)。
エコハウスに関する執筆や講演、技術指導を積極的に行っている。

 

 

■「断熱」についての世の中の関心は?

―東北で事業を展開している私たちからしても、まだまだ一般のお客様に「断熱」は響きにくいとの印象がありますが、松尾さんはどのように感じていますか。

松尾代表:東北に比べて寒さが緩やかな関西でも、断熱を求める人が少ないとは感じません。断熱の重要性は思っているよりは浸透しています。
国の求める基準はご存知のようにまだまだ低いのですが、私のようなYouTuberだけでなく、熱心に高性能住宅を提案し続けている企業や団体の地道な啓蒙活動によって、日本の消費者の知識はどんどんと底上げされてきています。この10年で状況は大きく変わってきています。それは私自身が強く肌で感じていることですね。

―そうなんですね。それは私たちにとっても嬉しいお話です。

 

■高断熱のメリットをどう伝えるか

―お客様の中には「冬は寒くて当たり前」という感覚の方もいます。これも断熱改修のハードルを上げている原因の一つではないかとの見方もあります。

松尾代表:「暖かい住まい」は、健康をはじめさまざまな面でメリットがあることを丁寧に説明することが重要です。私も、脳血管疾患や心疾患など重篤な病気だけでなく、皮膚のかゆみやぜんそく、アトピーなど家族の誰か一人は罹(かか)っているような疾患についても、断熱性能の向上で明らかに減ることを丁寧に説明しています。

例えば、今やテレビのゴールデンタイムでも健康関連番組がたくさん放送されていますよね。それほど国民の“健康”への関心は高いんです。
ただし、そうした番組で語られているのはほとんどが「食事」か「運動」なんですよね。
「居住空間」の重要性はまだまだ知られていない。
高断熱じゃなければいけないというよりも、室温を上げることがいかに健康にとって重要かということをしっかりと伝えていく必要がありますね。

―そうですね。その点は私たちもまだまだ努力が足りていない部分だと感じています。
住まい環境がいかに健康に寄与するかということを理解していながら、なかなかうまくお客様に伝えられていないと反省しています。

松尾代表:その時には、やはり伝え方が重要ですね。
納得を得るには、きちんと根拠を示して説明することが肝心です。
 
―幸せに豊かに暮らすためには、「経済的に失敗しない」という「お金」の側面と「健康に暮らす」という2つが重要なウエイトを占める、というお話を本にも書いていらっしゃいます。
確かに、リフォームを検討されているお客様には当然「予算」というものがついてまわるのですが、住宅性能を向上させるリフォームにかかる費用と今後の光熱費・冷暖房コストの関係をうまく説明する必要性も感じています。

松尾代表:そうですね。もっと言うと「トータルコスト」が重要です。
人によって「工事費+ランニングコスト=トータルコスト」は違いますから、トータルコストで考えることが大事です。そこには健康コストも関わってきますね。
例えば、脳梗塞になった場合、手術費用は平均で77万円。その後の生活にかかってくる費用を全部試算するとだいたい800万円くらいと言われています。
あくまでそれは一例ですが、リスクの高い住環境に身を置くことでかかるかもしれない費用も考慮に入れ、断熱改修でそのリスクを減らしてあげるということを検討してもらう必要があると考えています。

―ありがとうございます。
そうですね、お客様の立場に立って、暖かい住まいで暮らすことのメリットをコストの面からもしっかりと伝えていけるよう、心掛けていきたいと思います。

 

■当社の断熱改修の取り組みについての感想は?

―目先の費用ではなくトータルコストで考えてもらうという点においては、人間でいうところの“健康診断”に当たる「住まいの現状把握」がとても重要だと考えています。
当社では断熱リフォームを提案する際、「JJJ断熱診断」というツールを使い、既存の住まいの性能を数値化した上でプランニングする取り組みを進めています。改修後の計算値と比較してご提案すると、とても興味を持っていただけます。

松尾代表:あれは素晴らしいツールですが、実務で活用しているのはすごい。
もっとアピールした方がいいですよ。
大切なのは、一般の方々にもしっかりと納得できるように説明することです。将来病気になったときにどのくらい費用がかかるのか、介護費用はいくらか、客観的なデータとともに丁寧にご提案することが大切です。
行政や医療機関と連携した啓発活動も必要でしょう。
どこの市町村も医療・介護費用のひっ迫は切実です。
北洲さんほどの実績があれば、そうしたことにも取り組んでいけると思います。

―ありがとうございます。自分たちの取組みにさらに自信が持てました。
お客様のためにこれからも積極的に取り組んでいきたいと思います。

 

■気になる新著の内容は?

―最新の著書「お金と健康で失敗しない 間取りと住まい方の科学」は、一般の方にもとてもわかりやすい内容ですが、どんな読者をイメージして書かれたのですか。

松尾代表:新築やマンションの購入、賃貸物件を考えている人、現在の住まいで結露やカビに悩む人など、誰にでも役立つ内容です。
私がお客様に物件を引き渡す際に、1時間かけて説明していることを本にしたイメージです。
それに加えて、友達にマンション選びやエアコン選びなどについてアドバイスするような感じの要素も盛り込んでまとめています。

 

■住まいの環境改善を考えている人へのアドバイスを

―最後に、今、住まいの環境を改善したい、家を暖かくしたいとお考えの方にアドバイスをお願いします。

松尾代表:世界中のほとんどの国や自治体において、最低室温規定というものが制定されています。大半が18℃以上と規定されていて、健康上理想的には21℃以上とされています。
これは世界中の多くの統計調査から導かれた、明らかな事実です。
多くの人たちにも知ってもらい、居住環境の改善を検討してもらいたいですね。

ただし、残念ながらリフォームで高断熱改修をきちんとできる会社は、北洲さんを含めて全国に数社しかないと思います。それ以外で探すのはきわめて難しい。
「じゃあどうすればいいの?」と聞かれたら、新築で高断熱ができる会社を探してリフォームを頼み込むしかないと答えるでしょう。
それぐらい、リフォームで高断熱化するのは難しいことなのです。
ここまで述べてきたように、「暖かい住まい」は健康についてはもちろん、生活のあらゆる面でメリットをもたらします。
それだけに、まずは高断熱改修で実績があり、信頼できる会社に相談することが大切です。

 

■インタビューを終えて

データに裏打ちされた説明、わかりやすく親しみやすい語り口。
エコハウスに関心がある人たちを中心に、YouTubeの登録者数・視聴数がうなぎのぼりの理由が垣間見えた。
松尾さんが強調していたのは、お客様のために具体的なメリットを提示する重要性、その根拠をしっかりと説明することの大切さだ。
住まいの環境が健康に及ぼす影響、暖かい住まいのメリットなど、リアルにわかりやすく伝える必要性を強く感じた。

 

◆最新の著書
「お金と健康で失敗しない 間取りと住まい方の科学」 株式会社新建新聞社、2022年3月刊